精神障害者手帳取得アラフォー女性が「障害者限定公務員試験」を受験して疑問に感じたこと

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仕事は日々の居場所を確保する場所

 しかし、この障害者雇用枠の公務員試験について調べていると、ある問題を孕んでるのを知った。知的障害者にも同じ試験を課しているというのだ。そのため、今回の公務員試験では知的障害者の合格者数が著しく低く、合格者全体の0.4パーセントだという。

 確かに、一律の筆記試験では知的障害者は不利だ。実施する前にその点について言及する人はいなかったのだろうか。

 そもそも、障害を持っている人と一緒に働くということは、その障害の特性を理解することから始まる。何が得意で何が苦手か。何ができて、何ができないのか。人によってバラバラであることを理解して、得意である仕事に就かせるというのが、障害者雇用であるのに、知的障害者にとって不利なテストを課し彼らを切り捨てるのはあってはならないことだ。

 私は精神障害者になってから、仕事を得るのにとても苦労した。今の仕事につくまで、10年以上仕事がなかった。仕事がない状態が長く続くと、自分の中の誇りとか自信が根こそぎなくなっていった。そして、病気もどんどん悪化していった。引きこもっていた時期には何回か多量服薬をして自殺を図った。

 けれど、仕事を得てから、私は一度も多量服薬をしていない。それを考えると、仕事というのもがどれだけ人間にとって大事なものかわかる。仕事は日々の居場所を確保する場所であり、小さな目標を持てる場所だ。職場に行って、同僚と挨拶をすることすら、他者と関わりが持てる大事な行為だ。私は一時期生活保護を受けていたが、あの頃は人と話をしない日がたくさんあった。

 しかし、私は仕事を得ているのに、悲しいくらい所得が低い。一人暮らしのアパートで白菜やら豆腐やらをごった煮した鍋をすすっていると、もう少し良い生活がしたいと思う。税金は上がるが時給は上がらない。実質的に給料は下がっているようなものだ。

 精神障害者だと就職をする際に、病気をオープンにするかクローズにするかという選択ができる。これは障害が表に現れない精神障害者にだけあるものだと思う。障害をクローズにした方が仕事は受かりやすいとは聞くのだが、私はどうしても勇気が出ない。通院の時間を確保できるのか、急に調子を崩した時になんと言って説明したらいいのか、そういうことを考えると病気を開示した方がいい気がする。

 しかし、ハローワークで障害者雇用の求人を眺めていても、圧倒的に数が少ないし、履歴書を送っても面接に呼ばれない。そして、障害者雇用だと給料がぐんと低くなる。月給15万円以上の求人が珍しいくらいなのだ。

 障害者にとって自立は大きな問題だ。日本の障害者福祉はほとんど家庭が担っている。家族と暮らしている障害者の数はかなり多いと思う。彼ら、彼女らが仕事を得ることができれば、家から出ることができて一人暮らしができるだろう。自立のために必要なのがお金であることは障害者でも健常者でも同じだ。

 障害者が職場にいることは、決して悪いことではない。障害を持った人と接したことがない人にとっては新たな気づきが生まれるだろうし、障害を持っている人に仕事の調子を合わせることは、健常者にとっても仕事がしやすい職場になる。仕事を休みたくても無理して出勤する、合わない仕事でも意地になって頑張る、そういったことがなくなると皆が働きやすい職場になるのではないのだろうか。

 障害の特性に合わせて仕事を提供するということは、何も障害者に限定したことではない。健常者にだって特性があり、それに合わせた仕事をするのがいいのではないだろうか。人が、それぞれの差異を認め、互いに尊重し合う社会こそが生きやすい社会だと私は思っている。

【追記 2019年12月5日】
 読者の方から反応をいただいて調べたところ、第二次審査では学歴と職歴を問われることが分かりました。そして、第一次審査の作文は点数を算出せず、合否のみの判定になるそうです。

 誤解を与える記事になってしまい、大変申し訳ありません。

 しかし、障害者の立場というものは、この国ではまだ低く、自立して働くのが難しいのが現状です。

 今後も問題提起していきますので、よろしくお願い申し上げます。

小林エリコ(こばやし・えりこ)
1977年生まれ。短大卒業後、エロ漫画雑誌の編集に携わるも自殺を図り退職、のちに精神障害者手帳を取得。現在は通院を続けながら、NPO法人で事務員として働く。ミニコミ紙「精神病新聞」を発行するほか、漫画家としても活動。著書に『この地獄を生きるのだ』(イースト・プレス)『わたしはなにも悪くない』(晶文社)がある。『家族劇場』(大和書房WEB)『わたしがフェミニズムを知らなかった頃』(晶文社スクラップブック)を連載中。

2019年12月4日掲載

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