結婚できない男、忖度できない女、忘れられない大人たち……今期話題のドラマに共通する「不器用」賛歌

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「人並みの幸せ」に振り回される? 〇〇しなくてはならない、に疲れた時代の不器用賛歌

 人並みに結婚をして、とか、人並みの生活を、という言葉はよく使われる。人並み、と言われても人によって基準は違うが、他人から後ろ指をさされないよう、迷惑をかけずに身の丈を知って生きることを人並みと呼んでいるように思う。

 結婚しなくてはならない。空気は読まなくてはならない。男は泣いたり弱音を吐いたりしてはならない。女は美しくなくてはならない。「〇〇しなくてはならない」は、世の中を縛り続けている。だからこそ、「〇〇しなくてはならない」を踏み越えた事件が起きると、世間は盛り上がる。失言にいじめ、容姿いじりに不倫、あおり運転……正しくないこと、は今の日本で最も多くの人を惹きつけるエンタメだ。ネットニュースのコメントは千を超え、正義を掲げる人たちが議論をかわしあう。それだけ人々が、人並みに生きることを意識しすぎている結果ではないか。

 そしてSNS時代は他人の成功を可視化した。美しい容姿、楽しげな交友関係、贅沢な暮らしぶり、華やかな恋人たち……「人並み」以上の暮らしを、たやすくできるように見せられる「器用」な人たちに、複雑な思いを抱く人々は少なくないはずだ。

 今期の不器用賛歌ドラマは、そんな息苦しい時代の裏返しという一面は否定しない。しかし、何でもスムーズに美しく行うことが良しとされ、AIやデータなどの科学技術が進化していく中、「〇〇できない」とはとても人間的なことではないか。そう、「不器用」な主人公たちは、とても「人並み」な姿を見せてくれているとも言える。

 人は誰しも、できることとできないことが、デコボコと組み合わさっているものである。器用・不器用という側面を、良い・悪いという物差しで測る必要はない。不器用は不器用、ただそれだけのこと。誰しも持っている面に過ぎず、卑屈になったり開き直る必要はない。そう思えることが人並みのしあわせでは、というと陳腐すぎるだろうか。各ドラマの不器用賛歌は、人間賛歌でもある。しかも、声を張り上げて「せーの」で一斉に歌うたぐいのものではない。周囲との不協和音に心を痛めたことのある不器用な人たちが、きっと小声で口ずさめるような旋律なのだろう。調子っぱずれの主人公たちに、幸あれと願わずにいられない。

(冨士海ネコ)

2019年10月28日掲載

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