波瑠「G線上のあなたと私」が“凪のお暇・これ経ロス”の視聴者にお勧めの理由

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踊り場そのものの「G線上」

 そして、波瑠が演じる「G線上のあなたと私」の小暮也映子が置かれている立場はというと、踊り場そのもの。めでたく寿退社するはずだったが、退社後の結婚直前になって婚約者・村野智史(森岡龍)から「ほかに好きな人がいる」と告げられてしまう。婚約を破棄された。

 将来設計がすべてパーに。途方に暮れ、ふらふらと放心状態で立ち寄ったショッピングモールで「G線上のアリア」の生演奏を耳にしたのをきっかけに、大人のバイオリン教室に通い始める。

 教室で同じクラスになったのはイマドキの大学生・加瀬理人(中川大志、21)と主婦の北河幸恵(松下由樹、51)。年齢も立場もまるで違う3人の人間関係は一筋縄ではいかない。バイオリンのレッスンもそう簡単には上達しなかった。

 世代を超えた友情、恋愛は成立するのか。プロになろうとしているわけではなく、ただバイオリンを弾けるようになりたくて教室に通う大人たちに何がもたらされるのか。

 これ以上書くと、これからドラマを見る人にとって興ざめなだけだろうから、控える。ただし、原作の持ち味がそのまま生かされたら、傑作になるはずだ。

 波瑠自身はTBSの公式YouTubeのインタビューに対し、こう語っている。

「ただバイオリンを頑張っている女性を描くというわけではなく、教室を通して描かれる人間関係とか、一人ひとりが影響を与え合ったり、受け合ったりするのが面白いと思いました。(主人公・小暮也映子は)結婚できなくなって、悲劇のヒロインになってもおかしくないのに、ある意味、図太くというか、普通に生きられてしまっていて。劇的じゃない生活をしているところがすごくリアル」(TBS公式YouTubeの波瑠のインタビューより)

 主人公がリアルな生活を送るという点も、「凪のお暇」「これは経費で落ちません!」と一緒。バブル期のトレンディドラマのように、主人公が地に足の着かない生活を送っているようなドラマはもう二度と受け入れられないだろう。

 また、昭和期から平成期は、青春ど真ん中世代が主人公のドラマがあまりに多すぎた。
不倫に突っ走る30~40代の夫婦も同じ。そんな中、これまでは存在感が薄かったのが、青春末期の主人公の葛藤を描いたドラマだった。

 だからといって、主人公が30歳前後というだけでは視聴者の共感は得られないだろう。だが、「G線上のあなたと私」の波瑠は、同じいくえみさんが原作のドラマ「あなたのことはそれほど」(TBS、2017年)も成功させている。平均視聴率は 11・2%。最終回で14・8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)に達した。波瑠といくえみさんの作風は相性がいい。

「G線上のあなたと私」のチーフ演出家は金子文紀氏(48)で、こちらも「あなたのことはそれほど」と同じ。そして、チーフプロデューサーは天才ドラマウーマンとも称される磯山晶さん(52)なので、いやがおうにも期待は高まる。

 磯山さんは2016年に編成部に異動したが、このドラマから制作に復帰。過去には「池袋ウエストゲートパーク」(2000年、2003年)「木更津キャッツアイ」(2002年)などの話題作をプロデュースしている。宮藤官九郎氏(49)を見出し、世に認めさせた人でもある。古田新太(53)を演劇界からドラマ界に引き入れたのも磯山さんだ。才能の塊のような人である。

 ドラマ界において、「ヒットの方程式」なるものは存在しないとされているが、「G線上のあなたと私」には話題作になる要素が詰まっている。「凪のお暇」ロス、「これは経費で落ちません!」ロスで淋しがっている人には、とくにお勧めだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年10月15日掲載

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