「すぎる」が多すぎるゴルフ界にもっと「プロ意識」を 風の向こう側(56)

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 昨季の米ツアーで年間王者に輝いた北アイルランドのローリー・マキロイ(30)が、米シーズン終了後に欧州ツアーへ戻り、「アルフレッド・ダンヒル・リンクス選手権」に出場。通算15アンダーで26位タイに終わったマキロイは、欧州メディアに向かって、こんなことを言った。

「僕は今年の『スコティッシュ・オープン』では13アンダーまでスコアを伸ばしたのに、34位タイ(という下位)だった。最近の欧州ツアーはコース設定が甘すぎる。ミスショットがペナルティにならず、スコアは伸びる一方だ。13アンダーとか15アンダーというスコアなのに30位前後なんて状況にイライラする。コース設定をもっと難しくする必要がある。そうすることが未来の若い選手たちの育成につながる。それこそがゴルフ界に求められているんだ」

 これだけ聞いていると、正論のように感じられる。選手たちのスコアが軒並み伸びるのはコース設定が「簡単すぎるからだ」と語気を強めるマキロイ。ミスをしてもボギーやダブルボギーにならず、バーディーだって取れてしまうコース設定は、一流選手たちが戦う舞台としては、いかがなものかと警鐘を鳴らしている。そして、スコアが伸びるばかりのコース設定は選手たちを甘やかし、ゴルフをダメにしてしまうと危惧し、そんな欧州ツアーのコース設定を思い切り批判している。

 南アフリカ共和国出身で今年の「プレジデンツカップ」の世界選抜キャプテンを務めるアーニー・エルス(49)も、すぐさまマキロイの援護射撃に回った。

「ローリーの意見に100%賛成だ。『BMW PGAチャンピオンシップ』の舞台『ウェントワースクラブ』(イングランド)では、優勝スコアが6アンダーになるセッティングは難しすぎるという声が上がり、結局、優勝スコアが20アンダーになるようなイージーな設定に変えることになった。でも、あの大会は欧州ツアーを象徴するフラッグシップ・イベントなのだから、メジャー級の難度であるべきだ。真のテストでベストプレーヤーを選び出すべきだ!」

 なるほど。コースが「易しすぎる」「too easy」という意見は、ある意味、ごもっともなのだろう。

 しかし振り返れば、近年の「全米オープン」のコース設定が「難しすぎる」「アンフェアすぎる」と激しく批判し、ボイコットまで主張していた筆頭はマキロイだった。今年の全米オープン開幕直前まで、マキロイがUSGA(全米ゴルフ協会)のコース設定批判の先頭に立っていたことは記憶に新しい。

 結果的に、今年の全米オープンはUSGAの努力によって「素晴らしいコース設定」が実現され、米国のゲーリー・ウッドランド(35)が13アンダーで優勝。選手たちからも高く評価されて、コース設定に対する批判の声は聞かれなくなった(2019年6月21日『「全米オープン」勝利を導いた「エイミー」の教え』参照)。

 そうやって騒動が収まり、ゴルフ界全体がやれやれと胸を撫で下ろしたのも束の間、今度は欧州ツアーのコースが「易しすぎる」の声が上がったわけだ。

 もちろん、それはプレーしている選手たちの実感であり、率直な感想なのだろうが、見ている側からすれば、選手たちは一体どういうコース設定なら満足するのだろうかと首を傾げたくなる。

目的は「公平なフィールド」でも……

 ゴルフ・ヒストリーを辿れば、コース設定の変化と用具の進化は常に密接に絡み合っている。用具が進化し、選手たちの飛距離が伸びたからこそ、コースが伸長され、難度が大幅に引き上げられた。

 そうなると、選手たちからは「難しすぎる」という批判の声が噴出。その狭間で用具メーカーは用具のさらなる開発に必死に取り組んできた。

 だが、そうやって生み出されたモダン・テクノロジーの「産物」は、ときとしてUSGAやR&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフ・クラブ・オブ・セント・アンドリュース=ゴルフ競技の世界的総本山)が定めた基準や規定を超越してしまう。ルール不適合の「飛びすぎる」クラブでガンガン飛距離を稼ぐ選手が混じっていたら、適合クラブを握る大多数の選手がバカを見ることになる。

 そこで米ツアーは今季からドライバーの反発係数テストを強化し始めた。試合の開幕前に選手たちのゴルフバッグから直接クラブを抜き出し、すぐさまテストして色分け判定している。緑はOK、黄色は注意だが、ルール不適合の赤と判定されたクラブは没収される。

 今季開幕第3戦の「セーフウェイオープン」(9月26~29日)では、少なくとも5人の選手のドライバーがルール不適合で没収されたことがわかり、その結果に選手も関係者も「多すぎる」「ひどすぎる」とショックを受けている。

 とは言え、ドライバーを繰り返し使用しているうちに、金属疲労のような変化が起こり、ルールに適合していたはずのものが知らず知らずのうちに不適合になるケースもあるそうで、5人のうちの1人とされる選手は、こう言っていた。

「月曜日にルール・オフィシャルがおもむろに近寄ってきて、僕のドライバーを近くのテントに持っていってテストしていた。まさか不適合判定になるなんて想像すらしていなかったから、不適合と言われて大慌てした」

 この選手のドライバーは、わずか1週間前に契約メーカーがテストし、適合と判定されていたという。メーカーが行ったテストは、USGAが従来行っているテストをそのまま真似る方法で行われたそうだが、今季から米ツアーが実施しているテストは従来とは少し異なる方法だという説もあり、「テスト方法が異なっていたから判定結果も異なった可能性がある」と一部の米メディアはすでに報じている。

 米ツアーがこのテストを行う目的は、不適合クラブを取り締まることで「公平なフィールドを作ること」だそうだ。

 しかし、今回、赤判定を受けた5人の選手のドライバーが、もともとルール不適合だったのか、繰り返し使用によって不適合になってしまったのか、それともテスト方法のせいだったのか、その真相は明かされておらず、米ツアー側は「テストに関しては、できる限り秘密を守りながら行っていく」と言うのみ。

 秘匿性を重視する姿勢とフェアなフィールド作りという目的は、なにやら矛盾しているようにも感じられるが、いずれにしても、この一件、さまざまな点で「グレーである」という印象は拭えない。

「中指」で3年

 さて、韓国ツアーでは、米PGAや日本でも活躍経験のあるキム・ビオ(29)が9月26日から行われた「DGB金融グループ・ボルヴィック大邱慶北オープン」での優勝争いの真っ只中、ギャラリーのシャッター音に激怒し、ギャラリーに向かって思わず中指を立て、手にしていたクラブを地面に叩きつけたことが問題になった。

 この大会を制し、今季2勝目を挙げたにもかかわらず、重大なマナー違反とされたキムは、韓国ツアーから3年間の出場停止と1000万ウォン(約90万円)の罰金処分を科された。

 この件は米メディアも報じていたが、もちろん、マナー違反には違いない。だが、3年間の出場停止をどう見るか、その受け止め方はさまざまだ。

 米ゴルフ界の多くは「厳しすぎる」と感じている。中指を立てて3年間も出場停止になるのなら、これまでさまざまなマナー違反を繰り返してきたマスターズ・チャンプでもあるセルジオ・ガルシア(39)はどうなるんだと誰もが思うに違いない。

 実際、キムの「兄貴分」のような存在でもある韓国系アメリカ人で米ツアー選手のケビン・ナ(36)は、驚き混じりにこう言っている。

「キムがギャラリーに向かって中指を立てたことは悪い。罰金は然るべき。でも罰金で十分だろう。3年出場停止はバカげている。極端すぎる。キムの妻は第1子の出産を控えている。夫婦ともすっかり落胆している。男の仕事を3年も取り上げるのは、ひどすぎる」

 一方、米女子ツアーを席捲した韓国人選手のインビー・パーク(31)の見方は少々異なる。

「3年出場停止をアメリカ人が『厳しすぎる』と感じるのはわかるけど、韓国ではそれが『当然』『妥当』です。そして私自身の感じ方は、アメリカと韓国の中間ぐらいです」

足元を見つめ直そう

 その通り、マナー違反に対する判断基準は、数値化されていないこともあり、どうしても主観的になる。しかし、だからこそ選手側にもツアー側、大会側にも、それぞれのモラルやプロ意識が問われ、気遣いも求められる。

 キムにもう少しだけ観客に感謝する気持ちがあり、観客を楽しませようという思いがあったなら、中指を立てたりはできなかったはずである。韓国ツアー側も、3年出場停止が妥当であるとするのなら、その妥当性や必要性をキム本人や世界のゴルフ界にクリアに伝えるべきである。

 ドライバーの反発係数テストも不透明性が見え隠れしていて、「フェアなフィールド作り」からはほど遠く感じられる。誰のため、何のためのテストなのかという根本を誰もが見つめ直し、選手も用具メーカーもツアー側も、それぞれの立ち位置をあらためて自覚すべきときなのではないだろうか。

 コース設定の難易度に関して、「難しすぎる」と言ったと思えば「易しすぎる」と言う具合に、次々に批判が続出する近年の現象は、夢のような一流コースばかりでプレーして夢のような高額賞金を手にしている近年の選手たちの「贅沢病」の一症状に感じられるのは、私だけではないはずだ。

「~すぎる」「too much」という批判の声を上げる前に、ほんの少し見方を変え、自分の足元を見つめ直す努力は、今、ゴルフ界に携わるすべての人間に求められているのではないだろうか。そうできるかどうか、そういう努力を行うことを、「プロ意識」と呼ぶのだと私は思う。

舩越園子
ゴルフジャーナリスト、2019年4月より武蔵丘短期大学客員教授。1993年に渡米し、米ツアー選手や関係者たちと直に接しながらの取材を重ねてきた唯一の日本人ゴルフジャーナリスト。長年の取材実績と独特の表現力で、ユニークなアングルから米国ゴルフの本質を語る。ツアー選手たちからの信頼も厚く、人間模様や心情から選手像を浮かび上がらせる人物の取材、独特の表現方法に定評がある。『 がんと命とセックスと医者』(幻冬舎ルネッサンス)、『タイガー・ウッズの不可能を可能にする「5ステップ・ドリル.』(講談社)、『転身!―デパガからゴルフジャーナリストへ』(文芸社)、『ペイン!―20世紀最後のプロゴルファー』(ゴルフダイジェスト社)、『ザ・タイガーマジック』(同)、『ザ タイガー・ウッズ ウェイ』(同)など著書多数。最新刊に『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)がある。

Foresight 2019年10月8日掲載

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