英印の研究者が分析「自撮り依存症」3つのレベル “神の視点”になったら自撮り中毒?

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 フェイスブックやインスタグラムなど、SNSで誰もが気軽に発信できるようになったことで、「自撮り」投稿が加速している。美しい自分を投稿して「いいね!」を集め、なかにはインフルエンサーとして有名になる若者も増えてきた。しかし、そんな自撮り投稿に夢中になればなるほど、ある依存症に罹る可能性も高まることをご存知だろうか。

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〈私は承認欲求のために、『いいね!』がたくさん欲しいがために、本当の自分とは異なった過度な加工を施し、本来の同一人物とは思えないような姿を自分かのように投稿をしてしまっていました。それを見て、騙されたと思われても仕方ないです。(中略)一社会人として恥ずべき行為をしてしまいました〉

 これは、とある美容系インフルエンサーが、今年6月に自身のSNS上で公開した謝罪文だ。インスタグラムのフォロワー数は10万人以上。その端正なルックスと美容テクで、特に若い女性から絶大な支持を受けていた20代の美女だった。ところがユーチューバ―としても活動していた彼女、SNSに投稿される自撮り画像とYouTube動画でみる実際の姿が違い過ぎることが批判を集めて炎上。前述の謝罪に至ったようである。

 2016年にボシュロム・ジャパンが20代女性500名を対象に行った「自撮り写真とSNS投稿」の意識調査では、84%が「SNSに投稿する際に写真を加工する」と回答した。

 自動で顔にメイクを施したり、輪郭を補正してくれたりと、アプリの技術は日々進化を重ねている。「加工」は程度の差こそあれ、女性たちの中でもはや当たり前の行為となっているという。

 そんな中、SNSに自分の写真を投稿せずにはいられない「自撮り(セルフィー)依存症」と呼ばれる“病”が、精神疾患のひとつとして検証され始めているのだ。

命に関わる「セルフィー依存症」とは?

「自撮り依存症」に警鐘を鳴らしたのは、イギリスのノッティンガム・トレント大学と、インドのティアガラハール経営大学院の研究者たちだ。

 研究チームは、インドを中心に400人を調査。“どういった理由から自撮りしたくなるのか”の依存深刻度を測定する「セルフィー依存行動尺度」なるものを作成した。なぜ研究対象地域がインドかというと、インドが世界最多のフェイスブックユーザー数を誇り、危険な場所で自撮りしようとして死に至った事故例も最多という、SNS好きな国民性を持っているからだ。

 調査によって、彼らが自撮りを投稿する動機は、「自分の人気が高まる気がする」「自撮りをしないとグループとつながっていない気がする」などであることが判明した。そして、自撮り依存症には3つのレベルがあることも明らかに。

「1日最低3回の自撮りをするがSNSには投稿しない人(境界線段階)」をレベル1とするなら、「自撮りを1日に3回投稿してしまう人(急性疾患期)」をレベル2、さらに「一日中自分の写真を撮りたいという衝動に駆られ、1日に6回以上の自撮り投稿を行ってしまう人(慢性疾患期)」をレベル3と位置づけた。

 この調査が指摘する「自撮り依存症」には懐疑的な見方がある一方、「そういう状態は確実に存在するだろう」という研究者もいる。定義についても線引きが難しいところで、精神科医の樺沢紫苑氏は「極端な加工程度では、依存症とは言えない」と話す。

「女性は美への興味が強く、コンプレックスがある人も多い。写真の加工をするぐらいはよくある話です。ただ『やめたいのにやめられない』という状態に陥り、生活にも深刻な影響を与えているのなら、それは『依存症』と言ってもいいかもしれません」

 社会的デメリットを理解しながらも、つい手をだしてしまう精神状態は、酒やドラッグ、ギャンブル、セックスなどあらゆる依存症の基本的な症状だ。先ほどインドでの事故例について触れたが、過激な自撮りによって命を落とす事例も存在する。

 18年9月に発表された全インド医科大学などの調査によれば、「死のセルフィー(自撮り)」によって、11年10月から17年11月の約6年間で、世界で少なくとも259人が死亡した。死因の多くは波にのまれる溺死や、高い場所からの落下。あえて危険な場所でセルフィーをすることによって、より人から注目を集められるのではないかという心理が、こうした事故を生んでいるという。

「自撮り」は神の視点にならないよう注意!

 樺沢氏によると、自撮りにハマるのは「いいね!」の反応によって脳内物質のドーパミンが分泌され、その快感がヤミツキになってしまうせいだと説明する。

「自撮りほど、手軽で効果のある自己承認ツールはありません。現実で仕事や容姿を褒められることは滅多にないし、自分は評価されていると自信を持っている人は少ない。その点、自撮りはちょっとした工夫で『かわいい』『オシャレ』と一気に承認してもらえます。顔のアップに自信がなくても、体のパーツの一部や後ろ姿、コーディネートを投稿するのでもいい。自己実現欲求と承認欲求がかんたんに満たせるからこそ、自撮りはクセになるのです」

 SNSは、手軽に自己実現を叶える魔法の道具である。さらなる欲が出てくるのも人間の性だ。

「刺激に慣れると、人は同じ量の刺激では物足りなくなります。昨日うれしかった『100いいね!』も今日には『500いいね!』を求めるようになる。こうなると危険な場所で写真を撮ったり、肌の露出が増えたり、顔の加工も極端になったりと、投稿内容をどんどん“盛る”しかなくなってしまう」

“盛られた”投稿は、当然批判や炎上のもとになることも。それでも、過激な加工や危険行為をやめられないのは、一体なぜなのか?

「なかには背景が歪んでいて、誰が見ても『加工』とわかる写真をそのまま投稿する人がいます。あれは本人もどこかで『やりすぎかな』と薄々気づいてるはずです。ツッコまれる可能性があるかも……と感じつつ、やめられない。善し悪しの自己判断がきかなくなり、線引きが曖昧になるのも依存症の兆候です」

 炎上を続ける人は、SNSがもたらす刺激の中毒となっている可能性が高い。樺沢氏は、ムダな批判を浴びないためには、投稿するときに注意すべき点があるという。それは“神”の視点、つまり独善的にならないことだ。

「SNSはコミュニケーションツールとはいえ、自分の世界。ゆえに『神の視点』になりやすい。神になってしまうと、投稿がエスカレートして、炎上しても『下々のモノが何か言っている』と見下し、さらにアンチを煽るような投稿を繰り返すようになります」

 とはいえ、自撮りという行為自体は、決して悪いことではないと樺沢氏は語る。

「基本的には誰かに迷惑がかかるわけでもないし、娯楽として楽しむのであれば、自撮りは欲求も満たせる便利な遊びです。もし、自分の状態を『依存気味かも?』と思ったら、できるだけ人と一緒に写真を撮るなど、独りよがりにならない工夫をしましょう」

 注目も批判も簡単に集まるSNS。他者からの承認や評価に依存し、大事なものを見失わないようにしたいところだ。

取材・文/ジョージ山田(清談社)

週刊新潮WEB取材班

2019年8月31日掲載

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