阿部詩を柔道金メダル候補に育て上げた「じゃりン子チエ」の風景

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 神戸にある和田岬は大阪湾に突き出た岬で、南北朝時代には新田義貞軍が本陣を構え、東上してきた足利尊氏軍を迎え撃った要衝の地である。柔道52キロ級の金メダル候補、阿部詩(うた)(19)はかの地で生まれ育った。

 明治以降、和田岬には造船所が造成され、やがて三菱重工や三菱電機などの工場にとって代わられた。現在の和田岬を歩くと、ところどころに昭和の残り香を感じ取ることができる。

「詩ちゃんはお肉が好き。周りの常連さんたちも、詩ちゃんがいるとすぐ“ママー、肉焼いたって”って言うんですよ。メニュー表にはないんやけどね」

 と笑うのは、和田岬駅近くのお好み焼き店「よりみち」の店主、森好理江さん。

「詩ちゃんは結構食べますよ。冬場はおでんもやってるんやけど、最初におでんの具を5、6個食べたあと、焼き物をペロリと平らげてまうね」

 そんな詩は理江さんに心を許しているようで、

「うちをおばあちゃんの家やと思ってるみたい。ブラジャー見えるんちゃうかってぐらい洋服をバタバタさせて涼んだり、店入ってきていきなりスカート脱ぎだすから慌てて止めたら“短パン穿いてるから大丈夫や”やて。うちには孫が4人おるけど、お兄ちゃんの一二三とあわせて2人増えたようなもんですね」

 兄の阿部一二三(22)もまた66キロ級のホープである。

 店の常連で組織された兄妹の後援会の会長を務める渡部芳幸さんが話を継ぐ。

「お父さんがこの店に来ててね。ママが“この人のお子さんは柔道ごっつい強いんよ”って紹介してくれたんです。ええ、よく応援にも行ってます。いつもいるので、僕のことを2人のお祖父さんやと思ってる人もおる。面倒なんでわざわざ否定しません。もう孫のようなもんやし」

 まるで漫画「じゃりン子チエ」の世界である。

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