大下容子アナの「昼ドラ受け」に話しかけるやすらぎタイム

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「呼び名がハゲ、ニキビ、青っ洟(ぱな)って!」「平山浩行がまさかのマタギ!」「熊のフミコがカワイイおならを?!」「清野菜名、そりゃないぜ!」「大貫勇輔かっこいい!」「風間俊介はこういう役がぴったりだね」「橋爪功、絶え間ない尿意と闘うってつらいわね」と言っても、誰にも通じない。私の周囲に、テレ朝の昼ドラ「やすらぎの刻(とき)~道」を観ている人がいないからだ。

 2017年の前作に続き、石坂浩二らが豪華老人ホームで繰り広げる「老いに対する覚悟と抵抗」を楽しめると思っていたら、今作は2部構成。脚本家である石坂が劇中で描いている「道」(昭和編)が今のところメインである。が、友人・知人が誰も観ていないので、やすらぎトークができない。すごく寂しい。と思っていたら、ひとり、いた。大下容子アナウンサーである。

 各局の女性アナウンサーの中でも最も華がないというか、浮かれた感じが一切しない質実剛健な人だ。滑舌が良いとは決して思わないが、平日は彼女の声を聴かないと落ち着かない。地道にコツコツ、長寿番組を受け継いで、この春から「大下容子 ワイド!スクランブル」と番組名に名を冠することに。祝・冠番組!

 で、大下アナがやすらぎ放送直後、「昼ドラ受け」をしている。たった10秒に、昼ドラ受けのひと言と、午後の番組内容を詰め込む。

 初回は石坂浩二の生感想に言及、第3話で「菊村さんのドラマどうなる?」と煽り、第5話から「第1週からやすらげない展開でした」と昼ドラ受けを本格始動。大下アナが何を感じたのか聞くのが楽しみに。かつて朝ドラ受けは有働由美子、昼の再放送受けは高瀬耕造アナの顔芸が名物だったが、新名物が六本木にて誕生。そう、私は大下アナと会話するようになったのだ。「え、そこ?」「今のは忖度だね」「私もそう思った!」など、テレビに話しかける独居老人のごとく。

 もちろん、アナウンサーだから、ほとんどが当たり障りのない優等生発言ではあるのだが、その回で大下アナが思いを寄せる人物が私と同じだったりする。「今回はおりんちゃんだね」「三平兄ちゃん好きでしょ?」「小沼師範、素敵よね」と画面の容子に話しかける私。

 昭和編は貧しい山村が舞台で、主人公は思春期の少年だ。倉本聰は若さゆえの至らなさや後ろめたさをイヤというほど描いてくれるので、筆おろしネタなど案外生臭い話も多い。容子は「男子トークって、あんな感じなんですね」と逃げる。私は「そりゃあ随分とカマトト発言だな」とツッコむ。

「戦争で島を取り返す」と暴言を吐いたクソ議員に対しては「やすらぎの刻を観てほしいです」と苦言を呈する容子。「彼奴(きゃつ)らにこの作品のよさがわかるはずないわ」と毒づく私。浅丘ルリ子のずり落ち芸を「お嬢様っぽかったです」と容子。外連味(けれんみ)と捉えた私。あ、お気づきですか、途中から容子と呼び捨てに。そう、容子と私はやすらぎ友達なの。

 本編の面白さはもう少し平成編が熟してから原稿に書く。今は、容子に一方的に話しかけて満足している。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2019年6月27日号掲載

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