「石坂浩二のプロポーズにも立ち会った」 巨匠、倉本聰が語る濃厚なエピソードの数々

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石坂浩二と中井貴一には品がある

 日曜夜の視聴率競争で「ポツンと一軒家」が「世界の果てまでイッテQ!」を抜いたことが大きな話題になっている。難攻不落だった日本テレビの牙城をテレビ朝日が崩したからである。

 そんな好調ぶりが話題になっているテレビ朝日が4月から1年間の放送を開始するのが「やすらぎの刻 道」(月~金:昼12時30分~)だ。同作は、2017年に昼ドラとして半年間放送された「やすらぎの郷」の続編。老人ホームを舞台に、石坂浩二、浅丘ルリ子、加賀まりこ、五月みどりといった名優たちが人間ドラマを繰り広げる「やすらぎの郷」は大きな反響を呼んだ。

 脚本はいずれも倉本聰氏。登場人物も高齢者が多いが、驚くべきは今なお1年間の連続ドラマに取り組む倉本氏の旺盛な創作意欲だろう。倉本氏は今年1月、84歳になった。

 倉本氏はいわずとしれたテレビドラマ界の巨人だ。「北の国から」「前略おふくろ様」等、金字塔的な作品を数多く生み出してきた。

 その倉本氏が、自身のキャリアを振り返った新著が『ドラマへの遺言』。ここで倉本氏は“弟子”を自認する碓井広義上智大学教授相手に、創作秘話から放送業界の問題点まで縦横無尽に語っている。

 なかでも興味深いのは倉本氏の俳優評や彼らとの濃厚なエピソードだろう。たとえば、石坂浩二についてはこんな秘話が明かされる(以下、引用はすべて同書より)。

「兵吉(石坂の本名)の良さは品格があること。それから常識的な人間であること。今回、(『やすらぎの郷』を始めるにあたり)前もって浅丘ルリ子と加賀まりこと話していた時から兵吉の名前は出てましたよね。“あなたたち平気なの?”って聞いたら、“全然平気よ”って。じゃあ、気は合ってんだからっていうんで、あとはとんとん拍子に」

 ここで解説を補足しておくと、浅丘は石坂の元妻、加賀も元交際相手である。だから倉本氏は「平気なの?」と聞いたのだ。

「僕の身になってみれば、兵吉がルリ子にプロポーズした時に現場にいましたしね。お台場に移転する前の、曙橋にあったフジテレビで兵吉から“一緒に行ってくれ”って言われて、僕の車で浅丘家に。おまけにフジの局舎前には感づいたマスコミが張っていたんで、裏口に回ろうって画策したりね。駐車場で大の大人があれやこれやと。彼らはそんな経験も経ているんですよ」

 石坂と似た魅力があるのが、中井貴一だという。

「うまい役者じゃないと思います。ただ、貴一の芸には品がある。兵吉もそうなんですけどね。僕、品というのは役者にとってとても大事だと思っていて、つまり上品・下品の下品も品のうちなんです。でも、品がないっていうのはいやですね」

尊敬できる人を持つ人が光る

 70年代の代表作「前略おふくろ様」の主演はショーケンこと萩原健一。それまでのアウトロー的な役とは正反対の設定だったのには、こんな理由があったという。

「実は日テレから話が来る前にショーケンが会いに来て、なにか2人でできないかって話してたんですよ。ショーケンはそれまで『傷だらけの天使』(74~75年、日本テレビ系)とか、いわゆるアウトローが多かった。

 アウトローって上に立つ人がいないんですよ。自分が一番強い。僕はそれって良くないなと思ったんですね。高倉健さんの映画は必ず上に人がいることで成立している。頭が上らない親分がいて、その人のために命を張るっていうのが東映の図式なんです。

 たとえば鶴田浩二さんとか、嵐寛寿郎さんとかね。だから健さんが光る。つまり尊敬できる人間を持ってる人間が光るんです。尊敬される人間は別に光らない。自分がお山の大将になっていても限度があるから。ある時期から(石原)裕ちゃんはそういう状態にあったんです。

 で、ショーケンに今あなたのやってることはみんなお山の大将で良くないと。もしも板前の話をやるんだったら、あなたが頭の上がらないやつをいっぱいつけようじゃないかって話しました。

 おかげでショーケンは光ったんですね。髪型もロン毛をバッサリと切って角刈りにしてもらって。それと山形という地方出身の無口な人間っていうのもテレビであんまり書かれてなかったし」

 この無口さをおぎなうために生まれたのが、ショーケン自身によるナレーションだった。「~わけで」といった独特の語りは、今でもパロディが生まれるほど有名だ。

「でも、初めの頃はショーケンに伝わらないっていうか、うまくできなくて。僕、必ずナレーション録りに行って口立てで教えてました。

 ナレーション録りに来る脚本家なんて普通はいないんですが、とても大事だったんです」

 この独特のナレーションは、その後「北の国から」にも引き継がれていく。長いキャリアにつちかわれた蓄積を持つ脚本家と出演者による新作も、視聴率のみならず高い評価を得ることになるのではないか。

デイリー新潮編集部

2019年3月13日掲載

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