「きのう何食べた?」ケンジはおおらかな大型犬 内野聖陽が見せる絶妙な乙女力

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「うまい俳優はみんな頭がいい」

 もっとも、内野は途中でセミナーの仲間に「俺は俳優になる」と宣言する。そして本当にセミナーを辞めてしまう。仲間たちは「俳優なんて、成功するかどうか分からないぞ」と止めたそうだが、内野は自分の信念を通し、文学座研究所に入った。その後の内野の成功は誰もが知るとおり。内野が俳優になることを止めたセミナーの仲間は不明を恥じたそうだ。

 内野も堺も同じ役をやりたがらないが、早大出身という共通点がある。堺は第一文学部を中退した。多くのプロデューサーや演劇評論家らは「うまい俳優はみんな頭がいい」と口にするが、この2人もやはり頭がいいのである。

 誤解してほしくないが、学歴のことではない。たまたま2人は早大に進んだが、プロデューサーらが言うのは地頭のことだ。役について深く考えられる力がないと、別人格を演じきるのは難しいのだろう。

 たとえば内野は、ケンジのかわいらしさを体現することについて、こう語っている。

「男性でも女性でも心から100%、思い切り泣いていたり、思い切り拗ねてたり、そういう瞬間は『かわいいな。こいつ』と思うじゃないですか。ですので、シロさんと対するときは、100%ストレートに出す、ということを意識しています」(番組ホームページより)

 深く考え抜いて演技している表れに違いない。

 こうも語っている。

「1円にこだわる細かいシロさんに対し、ケンジの一番のポイントは大らかであること。大型犬みたいな感覚でシロさんのそばにいれば、エサも与えてくれるかな(笑)という感じでいます」(同)

 さらっと言っているが、役づくりにあたって、自分が犬になる想像までする俳優は、そういないのではないか。SNS上には「最強ヒロイン」と絶賛する声もあるが、俳優・内野にしてみたら、「してやったり」だろう。

 ちなみに、このドラマはシロさんとケンジの食事のシーンが多い。原作のとおりだ。「おや」と思わせるのは撮り方。テーブルの真横から、かなり引いて撮っている。ありそうでない撮り方である。単調に見えてしまうからだ。

 これに似た撮り方を好んだのは大監督・小津安二郎(1903~63)。やはり食事のシーンを大切にした。その小津は監督人生の大半を松竹大船撮影所で過ごした。このドラマの制作は松竹。意識しているのか…。うがちすぎかも知れないが、内野の演技をはじめ、見どころ満載である。

高堀冬彦/ライター・エディター

週刊新潮WEB取材班編集

2019年6月14日掲載

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