就活中の女子大生に忍び寄る“下心社員”… 「OB訪問アプリ」の危険性と対処法

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 6月1日から各企業の採用面接の選考が解禁され、いよいよ就職活動が本格化している。いまも企業で働く同じ大学のOB(OG)を訪問する「OB訪問」に勤しむ学生たちも少なくないが、今年2月、これを悪用した事件が起きた。OB訪問を受けた大手ゼネコン・大林組の男性社員が、事務所と偽った自宅マンションに女子大生を連れ込み、強制わいせつをはたらいたのだ。加害者と被害者を繋いだツールは「OB訪問アプリ」だったと報じられている。

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「Matcher」「HELLO, VISITS」「ビズリーチ・キャンパス」「yenta」など、社会人と学生をマッチングする「OB訪問アプリ」は近年増加傾向にある。

 通常、OB訪問をするとなれば、電話やメールなどでのアポ取りなどが必要だが、このアプリを使えば、スマホ操作で気軽に約束がとりつけられるため、多くの就活生が利用している。中には、自分の出身大学でない先輩社会人と接触できるものもある。

 採用コンサルタントで人材研究所代表取締役社長の曽和利光氏は「就活生にとって、OB訪問アプリが欠かせないツールとなったのは当然のことでしょう」と語る。

「OB訪問とはいうものの、実際上は採用面接となっているものもあるんです。これをパスすると『他のOBも紹介してあげるよ』と誘われ、事実上の2次、3次面接と進む。6月1日の採用面接の解禁後に、“本当の”最終面接を受けて内定を出されるという流れです。例えば、ある総合商社の内定を取った学生のほぼ全員が、事前にOB訪問をしていたという話も聞いています」

 大手企業の場合、就職ポータルサイトから応募し、書類審査と数度の面接を経て内定まで辿り着けるのは、100人に1人、あるいはさらに狭き門といわれている。こうした正規のルートとは別に用意されているのが、OB訪問ルート。アプリを使って、一気に選考を進めた方が合理的というわけだ。

「僕の部屋で続きを…」に注意

 企業としても、OB訪問アプリには利点が多いという。

「就職ポータルサイトを使うと、学生はたくさん募集してきますが、人事担当者がその中から良い人材を見極めるのは大変な作業です。一方、OB訪問(OB訪問アプリ)は、ある意味で社員からの推薦になる。こちらのほうが効率よく良い人材を見つけられる。ポータルから来る学生より高い確率で良い人材に巡り会えるのです」

 しかし、大林組で起きた事件のように、OB訪問アプリには危険な側面もある。

「アプリで登録しているOB社員が、企業公認で登録をしているのか、それとも個人で登録しているのか、見分けがつかないことが少なくありません。実際は採用の権限がないのに『自分は人事部とつながっている。僕の部屋に行って話の続きをしよう』などと嘘をつかれ誘われても、『断ったら、採用で不利になるかも……』と不安に感じ、ついて行ってしまう女子大生もいるでしょう」

 ビジネスニュースサイト「BUSINESS INSIDER JAPAN」が実施したアンケート調査では、約5割の就活生が、程度の差はあれセクハラ被害を受けたことがあると答えた。

“悩める後輩の相談に乗りたい”という善意ではなく、下心からアプリを利用する社会人がいることは想像に難くない。そもそもそういった誘い文句を言ってくる人物のほとんどは、企業公認ではなく個人で登録しているため「きっぱりと断るべき」だと、曽和氏は釘を刺す。

「本当に企業公認でOB訪問アプリに登録している人は、通常、社内で将来を期待されているエリートですから、そんな危ないことをするとは考えられません。個人の資格で登録している人であれば、拒否しても採用に影響することはありません」

 OB社員からの誘いを断ることで生じるデメリットは皆無と考えていい。

セクハラ被害は企業に即報告

 それでも、誘いを断ったことで「こういうとんでもない学生がいたから採用するべきではない」と会社に告げ口する、悪質な輩がいないとも限らない。そういったケースではどのように対応するのがベストなのだろうか。

「むしろ、セクハラ被害に遭った女子大生は『こういうことがあったのですが……』と企業の人事部に連絡したほうがいいでしょう。私は人事の仕事を長年やっていますが、女子大生からそうした相談が寄せられたところで、『この学生はけしからん』と考えるような企業は絶対ありませんから安心してください」

 善意なのか下心なのか、見分ける術はあるのだろうか。

「悪いことをする側の心理としては、『この子がうちの会社に入ってきたら面倒だな』と思えば、変なことは言ってきません。社会人生で、長く付き合う後輩になるかもしれないわけですから。逆に最初から『この子はどうせうちに入れない』と思えばより大胆なことができるものです」

 曽和氏によれば、OB訪問を採用活動として重視するのは、基本的に大手企業に限られる。そうした企業に入社できる学生には条件があるといい、

「ハッキリ言えば、偏差値の高い大学に籍を置いているかどうかです。過去に採用実績のない大学だと、内定を取るのはなかなか難しいという現実があります。たとえば、出身大学でない大学の人間とマッチングした時、自分の大学でこの企業に入社した人はいないのに、どうして連絡があるんだろう、と疑問をもつべきです。そういう時には、ニセのOBかもしれませんので注意が必要でしょう」

 いずれにせよ、自己分析や業界研究、会社説明会、OB訪問、筆記試験、面接……と、就職活動ではしなければならないことが多岐にわたり、将来を決める一大事ということで極度のプレッシャーがかかる。不届き者のOBは、そんな不安でいっぱいの女子大生の弱みに付け込むのだ。

取材・文/星野陽平(清談社)

週刊新潮WEB取材班編集

2019年6月8日掲載

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