ネットで嫌われ者の「酒飲み」、その心境を代弁すると(中川淳一郎)

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 丸山穂高衆議院議員に対し、元所属先である日本維新の会・松井一郎代表(大阪市長)が、ツイッターに「丸山君、アルコール依存症は精神的なダメージがあると聞いていたので‼」と書き、丸山氏がこれに反発しました。同氏がアルコール依存症かどうかはわかりませんが、酒好きではあるでしょう。

 ネットでは酒飲みは嫌われる傾向にありますが、酒飲みの心境というものを代弁してみます。まず、口の中に液体を入れるのであれば、酒でなくては損だ、という感覚があります。さらに、酒ではなく水や麦茶を飲む時も「この水分がアルコールの排出を助けてくれるのだ。そのために予め水分を入れておこう」というモチベーションが働くのです。

 なにかと理由をつけては酒が飲めるぞと歌う「日本全国酒飲み音頭」では、1月は正月だから、2月は豆まきだから、以後ひな祭り、花見、こどもの日、田植え、七夕、暑いから、台風、運動会、何でもないけど、ドサクサ――と酒を飲む理由を列挙していきます。いや、まさにコレなんですよ。

 久しぶりに友人と会ったから酒が飲めるぞ。ちょっとボーナスが入ったから酒が飲めるぞ。雨が降って外に行けなくてつまらないから酒を飲むぞ、とかなんでもかんでも酒を飲む正当性にしてしまう。せっかくこんなにおいしそうに牛タンが焼けたんだから、ここはビールを飲まなくては損だとか、新幹線に乗ったんだからビールを飲まないとマズいでしょう、みたいな考えもあります。

 酒を飲むことの罪悪感があるとともに、飲んでもロクなことがないのが分かっているから正当化したくなるのです。丸山氏のように暴言を吐くこともあれば、記憶を飛ばしてしまったりと、過度な飲酒はロクな結果をもたらしません。滑って転んでケガをしたりもする。何よりも周囲に迷惑をかけてしまいます。

 先日、ウェブメディア界隈の人々が集結する飲み会があったのですが、男だけでとにかく楽しかった。全員が酔っ払っており、我々はうるさかった。隣の席の女性2人組が帰り際に「うるさいなぁ~」と言っているのが聞こえました。そのくらいうるさいのですが、誰もうるさいことに気付かないのです。ようやく女性の指摘で「オレらうるさかったみたいだぞ……。声を抑えよう」となりました。

 酔っ払い同士で結界でも作ったかのようになり、その結界の中では何をしてもいい、といった空気が醸成されるのです。今回は全員が酔っ払っている状態でしたが、冷静な人や下戸の人がいるとそこで衝突が発生します。丸山氏の「戦争発言」の録音を聞くと、「戦争なんて言葉は使いたくない」と返答した訪問団団長の大塚小弥太氏の冷静さが際立ちます。

 丸山氏は以前、飲み屋で酔っ払った時に、店の外で男性とトラブルになり手に噛みついたことがあります。その時は、議員在職中は断酒をすると宣言しましたが、まぁ、酒が好きなのであればそんな宣言はしないでいい。あくまでも、自分がおかしくなる一歩手前の量を把握し、そこでストップすればいいのです。って、できてない私が言うのもなんですが。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2019年6月6日号掲載

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