新1万円札「渋沢栄一」の生地・埼玉県深谷市がまさかのキャッシュレス推進

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 猫も杓子もキャッシュレスと騒々しい。時流に乗り遅れまいと、企業のみならず多くの自治体がキャッシュレス化への取り組みを宣言している。その先鞭を付けたのが、新1万円札の肖像に選ばれた渋沢栄一の生地、埼玉県深谷市とはこれいかに。

 深谷市は、5月11日から実証実験として電子プレミアム商品券の販売を開始した。単位は、地元名産の葱にちなみ「negi(ネギー)」だという。1ネギーが1円で、発行額は1億1千万円分。1万円で1万1千ネギー分購入できるので、千円分得する計算になる。深谷市産業ブランド推進室の説明では、

「14日には完売しました。商品券が使用できるのは市内で220店。利用方法は専用アプリをスマホにダウンロードした上で表示されるQRコードを提示し、それを店で読み取ってもらう。また、スマホを使用しない人はQRコード付き商品券を店員に渡せば利用できます」

 電子商品券普及の成否は加盟店側の対応次第と指摘するのは、ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏だ。

「キャッシュレス化に目が行きがちですが、深谷市の電子プレミアム商品券はかつての地域振興券などと同じ。つまり、目的は地域経済の活性化です。電子商品券を発売しても、加盟店に読み取り機がなければ普及させるのは難しいでしょう」

 確かに、店頭に読み取り機がなければ、電子商品券は絵に描いた餅。再び、産業ブランド推進室に聞くと、

「読み取り機は、加盟店のスマホやタブレットを利用しています。実は、深谷市は昨年からふるさと納税の返礼品に、全国初の市内で利用できる電子感謝券の取り扱いを始めていました。それで、加盟店にも今回の試みを抵抗なく受け入れていただけたのではと思います」

 深谷市は、昨年から入念に下準備を始めていたわけだ。経済ジャーナリストの福山清人氏はこう警鐘を鳴らす。

「10月に消費税が10%になるのと同時に、キャッシュレス決済の利用者にポイントが還元されます。その影響で多くの自治体がキャッシュレス化を推進していますが、深谷市のように予(あらかじ)め準備しているところは少ない。拙速に進めれば現場は混乱し、コストが増加する恐れも少なくありません」

 自治体も、キャッシュレスというバスに急いで乗る必要はないのではないか。

週刊新潮 2019年5月30日号掲載

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