鉄道各社で「有料着席サービス」が大人気、実はこんなデメリットあるとの指摘も……

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“貧乏人は立っていろ”なのか!?

 3月27日、朝日新聞の夕刊1面トップに「『痛勤』よ、さらば」の見出しが躍った。リードを引用すると、《数百円の追加料金を払えば通勤時間帯も座って乗車できる「有料着席サービス」に、鉄道各社が力を入れている》という記事だ。

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 この朝日新聞の記事、事実ベースにおいては何も問題はない。確かに鉄道各社で「有料着席サービス」は花盛りだ。主なものを表にしてみた。

本来は渋滞解消が責務

 共通しているのは、「運賃以外の追加料金を払えば座れる可能性が飛躍的に高まる」という点だ。表で紹介したJR東日本の「普通列車グリーン車」の場合は、必ず座れるという保証はない。

 一方、東武の「スカイツリーライナー」や「TJライナー」、小田急の「ロマンスカー」といった列車は、全て指定席だ。人気で売り切れることもあるが、座席の購入に成功すれば確実に座れる。

 なぜ、これほど「有料着席サービス」が人気なのか、鉄道ライターが解説する。

「基本は、朝日新聞の記事が指摘した通りです。国土交通省の調査では、1975年度における首都圏の鉄道混雑率は221%でした。それを2009年度に167%まで下がりましたが、その後は横ばいが続いています。全く改善しないラッシュ時の混雑に音を上げた通勤・通学客が『数百円で座れるのならいいか』と購入しているのでしょう」

 首都圏の傾向として、夜の下りダイヤを充実させているようだ。東急の「Qシート」は平日の21時以降から登場。他の東武、小田急、西武、京王、京急も、帰宅時のラッシュに対応した下り電車の方が多い。朝のラッシュには耐えられても、残業や飲み会で遅くなると座りたくなるということなのかもしれない。

 朝日新聞の記事も鉄道各社の動きを伝え、最後は東急の《「Qシートの乗車率は9割と好調。増便、路線拡大も検討していく」》というコメントで結んでいる。

 だが、記事に漂う「鉄道各社は経営努力を重ねています」というトーンに、前出の鉄道ライターは「違和感を覚えます」と指摘する。

「そもそも鉄道会社は、複々線化やホーム延長などの設備投資を行い、混雑率を下げる責務があります。東京や大阪を中心とする大都市圏への人口集中は続いており、朝夕のラッシュが改善しないのは問題です。一方、少子高齢化により、通勤・通学客が減少。職住近接のトレンドも加わり、例えば定期券の売上は下落傾向にあります」

 公益性の極めて高い鉄道会社だが、利益を上げることを目的とする私企業でもある。おまけに、複々線化やホーム延長は、地元住民が用地買収に応じなかったり、行政との折衝が困難だったりするケースも珍しくない。

「鉄道会社の苦労も分かりますが、安易に『有料着席サービス』へ流されていることも否定できないでしょう。何よりも乗客への負担増は看過できません。朝日新聞は『「痛勤」よ、さらば』と見出しを打ちましたが、実際は逆です。『有料着席サービス』により、普通の車両で通勤ラッシュは更に悪化してしまうのです」(同・鉄道ライター)

 まず、JR東日本の「普通列車グリーン車」や東急の「Qシート」のように、有料専用の車両を連結したケースを考えてみよう。その1~2両が普通車両なら、より多くの乗客を乗せることができるのは言うまでもない。

「西武の『Sトレイン』や京王の『京王ライナー』のように専用列車を走らせる場合も、一般の乗客にはデメリットのほうが大きいです。ダイヤ上、1時間で運行可能な電車には上限があります。有料の電車を走らせれば、通常電車の運行本数は減ってしまうのです。仮に上限に達していなかったとしても、専用列車より通常列車のほうが乗客数は多いことは言うまでもありません」(同・鉄道ライター)

「有料着席サービス」が導入されるにあたり、なかなか不満が表面化しないのは、一般車両の乗客が、その違いを認識することが難しいことにある。

「どうせ座れないのは同じです。一般の乗客は、『有料着席サービス』を止めれば混雑率が下がる可能性があるとは気づきません。これに鉄道会社はつけ込んでいると言われても仕方ないでしょう。真実は『金持ちは快適な座席に座り、貧乏人は立ちっぱなし』です。通勤・通学に“格差”が持ち込まれたと言わざるを得ません」(同・鉄道ライター)

週刊新潮WEB取材班

2019年4月22日掲載

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