「いだてん」で話題の天狗倶楽部 名前の由来は聞き間違い!?

エンタメ 2019年1月12日掲載

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 歌舞伎俳優の中村勘九郎と俳優の阿部サダヲがW主演を務める大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」が1月6日にスタートした。日本で初めてオリンピックに参加した男・金栗四三と、日本にオリンピックを招致した男・田畑政治を描いた本作。脚本は朝ドラ「あまちゃん」などでお馴染みの宮藤官九郎が手がけている。

 明治以降の近現代のみが描かれる大河ドラマは実に33年ぶりで、放送前には「大河ドラマらしくない」という声も聞こえたが、初回放送の平均視聴率は15.5%(昨年の大河ドラマ「西郷どん」の初回は15.4%)だった。

 初回放送で、特に話題を呼んだのが、実在した日本最初のスポーツ同好会「天狗倶楽部」だ。「天狗倶楽部」は中村勘九郎演じる金栗四三や、金栗とともに日本人として五輪に初参加した三島弥彦(生田斗真)、日本最初の応援団長吉岡信敬(満島真之介)などのメンバーが集まり、野球を中心としたスポーツ活動を行っていた団体だ。

 その「天狗倶楽部」の中心人物が、武井壮演じる創設者・押川春浪である。『海島冐險奇譚 海底軍艦』で人気を博した冒険作家で、日本SFの父と呼ばれる一方、自らが編集長をつとめる「冒険世界」「武侠世界」などの青年雑誌をヒットさせた人物。破天荒でバンカラでスポーツ好きの熱血漢。ドラマの中でも野球ボールを追って園遊会に乱入する姿が描かれているが、春浪は中でも野球が大好きだったという。

 そんなスポーツ大好き、野球大好きの春浪が立ち上げたのがまさに「天狗倶楽部」だったのだ。それにしてもなんで天狗?と思うむきも多いだろうが、もともとは「東京倶楽部」と名乗っていた野球チームだったという。
 しかしある時、やまと新聞チームとの試合に19対1で大勝し、「われらは天軍ティーム!」と春浪が言った言葉を、万朝報の記者が「天狗ティーム」と新聞に記載。これを春浪本人も気に入って以後「天狗倶楽部」を名乗ったというのだ。

  押川春浪や天狗倶楽部の実話を元に描かれた小説『球道恋々』(木内昇・著)には、その時のエピソードが以下のように描かれている。

「〈天狗ティーム〉
 東京倶楽部のことが、そう書かれている。そういえば試合後の酒席で、押川は徳利(とっくり)から直に酒をあおった勢いで、

『我が党は天軍だ、向かうところ敵無しの天軍ティームだ!』

 と、気炎を上げていたのだ。あの日試合に参加した面々には文筆家が多くいたようだから、誰かがそれを万朝報の記者に語ったのかもしれない。それがどういう経緯で『天狗』になったか知れぬが、『天軍』と称するよりずっと、あの集団の特性を表している。周りが見えず調子に乗っているところなど、まさに、である。
 しかし当の春浪はこの聞き間違いをいたく気に入ったらしい」

野球を愛し続けた男

 天狗倶楽部が立ち上がった明治42年頃、学生の間では野球人気が過熱。野球に打ち込みすぎて落第する学生が続出したり、苛烈な応援合戦のすえに早慶戦が中止になるなど、その行き過ぎが問題になっていた。

 東京朝日新聞が明治44年8月に「野球界の諸問題」という記事で天狗倶楽部と春浪を名指しで非難し、「御馳走をしたり物を寄附したり写真を載せたり記事を書いたりして選手の虚栄心を扇動せんとのみ計って居る」と書いた。続けて「野球と其害毒」と題した一連の記事で学生野球に対する一大ネガティブキャンペーンを開始。新渡戸稲造や乃木希典ら名門校の校長が日替わりで登場し、野球がいかに学生に害をなすかを弾劾した。

 中でも日本の野球草創期を支えた一高校長の新渡戸稲造が「野球は巾着切(スリ)の遊戯」「常に相手をペテンにかけようと知恵を絞る遊び」「選手は礼儀知らずで品性下劣」と言ったことに、春浪と天狗倶楽部の面々は激高。春浪が属する博文館刊行の「冒険世界」「野球界」誌や讀賣新聞、東京日日新聞紙上で「野球と学業を両立している学生はたくさんいる。野球は学業に悪影響と決めつける者は、教育者でありながら教育の現場を見ていない」など猛反論した。その後も論争は激化し、両者一歩も譲らず、春浪らの働きかけで讀賣新聞主催で野球を擁護する「野球問題大演説会」が開催される事態にまで発展したという。

 博文館の社員だった春浪だが、野球害毒論争がきっかけとなり辞職。38歳の若さで亡くなっている。野球のために会社を辞めたほどの愛を貫いた春浪だが、意外にも野球が下手だったというから驚きである。再び『球道恋々』から引用してみよう。

「ろくに打棒も構えられない相手に1点取られたのは、春浪の失策が原因である。(中略)続く打手がまたしてもボテボテのゴロを遊撃手右手に転がし、今度はさすがに捕れるだろうと安穏と構えていた銀平の目の前で春浪がトンネル、慌ててカバーに入るも、『俺が捕る!』となぜか春浪が球に追いすがり、むんずと右手で掴んだまではよかったが、身体をひねって本塁に投げるやこれが大暴投と相成り、1点を許したのだった」

 熱量は人一倍だが、実力は伴っていないことがうかがえる。スポーツを愛し、スポーツのために戦い続けた押川春浪と天狗倶楽部。今後「いだてん」では、彼らのどのような姿が見られるのか、注目したい。

デイリー新潮編集部