〈鼎談〉ケニー・オメガ×マキシマムザ亮君×糸井重里 第4回 音楽へのこだわり。
平成の終わりを目前に、みなさんはどんな「忘れられない記憶」をお持ちだろうか?
新日本プロレスの現IWGPヘビー級チャンピオン(2019年1月1日現在)のケニー・オメガ選手と、ロックバンド「マキシマム ザ ホルモン」のマキシマムザ亮君さんが揃って挙げるのは、平成元年に任天堂より発売された伝説のRPGゲーム『MOTHER』。いまもなおカルト的な人気を誇るシリーズのゲームデザインを手がけたのは、コピーライターの糸井重里さん。
プロレスラーとして、ミュージシャンとして、『MOTHER』の世界観に強い影響を受け続けてきたというお2人が、30年越しの想いを抱えて糸井さんと初対面! ひとつのゲームを語るうちに蘇る、平成を駆け抜けてきたそれぞれの葛藤、そして勇気。
2018年12月に「ほぼ日刊イトイ新聞」で企画・掲載されたこの異色の座談会(全8回)を、お正月スペシャルということで特別に「デイリー新潮」からもお届けします! では第4回〈音楽へのこだわり。〉 お楽しみください。
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糸井:ゲームをつくるときって「どうやったらおもしろくなるだろう」は、みんな考えると思うんです。でも、ほんとうは「おもしろくないところ」を、どうつくるかも大事なんです。つまり、「おもしろくないところ」がちゃんとできてないと、おもしろいところには目がいかない。
ケニー:あぁ。
亮君:たしかに‥‥。
糸井:じゃあ、おもしろくない部分をどうつくるかというと、それって「絵をかく前に、キャンバスに白い絵の具をぬっておく」みたいなことだったりするんです。ぼくが『MOTHER』をつくったとき、アメリカの背景だったから、主人公の女の子の家を教会にしたんです。それで「エイトメロディーズ」をつくるときは、「讃美歌をつくってほしい」と頼みました。そもそも讃美歌って、みんなが「わぁ、おもしろい!」って興奮するようなものじゃなくて、みんなが心を穏やかにするものです。そういうベーシックな表現の上に、「ゲップー」や「どせいさん」のような、いろんなクリエーションを乗せています。『MOTHER』というゲームは、じつは「そこが大事なんだよ」ということを、きょうの話を聞きながら思い出しました。
ケニー:私は「ギーグ」のときの音にも、すごくビックリしたんです。すごくヘンな音がいっぱいあって‥‥。
糸井:ギーグのときの曲は、ぼくの頭の中ではビートルズの『REVOLUTION 9』がありました。どこかに連れていかれちゃうような、ああいうヘンな感じを出したかったんです。
亮君:糸井さんは『MOTHER』のなかで、どの曲が好きなんですか?
糸井:まさにさっきの「白い絵の具」という意味でいうと、スノーマンの曲はとくに好きです。寒いし、白いし、あの上にいろんなものを乗せていけばいいんだという。あの曲を聴くと、なんだかほっとします。
亮君:昔、『MOTHER』のサントラを買ったら、8ビットの原曲じゃなくて、ボーカルの入った本格的な曲になっていて、すごくビックリした覚えがあります。
糸井:あれはイギリスのスタジオで、すべて新しく録音し直したんです。
亮君:あのボーカルバージョンも大好きですが、ファミコンの8ビットの音も、やっぱりいいんですよね。操作のときの「ピピピッ」というコマンドの音、あれもBGMみたいに思っちゃいます。
糸井:ゲーム音楽がどれだけ大事かというのは、最初からかなり意識にありました。ファミコンソフトの総メモリ量なんて、ほんのちょっとしかないのに、もう非常識なくらいに音楽データにメモリを割いてましたから。
ケニー:私は「ポリアンナ」という曲が好きです。
糸井:ポリアンナ、いいよね。明るくて。
ケニー:はい、カラオケでよくうたいます(笑)。
会場:(笑)
亮君:いまの「歌」の話で思い出したんですが、昔、『MOTHER』に背中を押してもらったできごとがあって‥‥。
糸井:ええ。
亮君:ちょっとネタバレみたいになるので、まだやってない人は耳を塞いでほしいのですが‥‥。『MOTHER』には「歌の力が世界を救う」みたいなところがあるじゃないですか。
糸井:ああ、そうですね。
亮君:当時、中学生だったんですが、その頃ってじぶんが選ぶものすべてが正解だと思っていた時期で、なんでもじぶんと結びつけては自己肯定するようなこどもだったんです。そんなある日、ぼくの中学校に不良軍団が攻めてくるという連絡があって‥‥。
ケニー:なんかすごいね(笑)。
亮君:ぼく、ラグビー部のキャプテンだったから、「俺たちのラグビーを邪魔するな!」とか言って、スポ根マンガのキャプテンみたいに不良軍団をやっつけたかったんです。でも、その日、ぼくは学校を早退しちゃって‥‥。
糸井:ああ。
亮君:そんなじぶんがすごく情けなくて、それで「俺はラガーマンとして失格だし、かっこいいキャプテンには一生なれない。じぶんはもうロックしかない、歌しかない」って、そう思うようになっていったんです。そんなときに『MOTHER』をやってたから、なんかすごく影響を受けちゃって、クリアしたときなんて「やっぱ歌なんだよ! 『MOTHER』が俺にうたえって言ってる!」って。
会場:(笑)
ケニー:それはもう運命だね(笑)。
糸井:ぼくは「歌が力を持つ」っていうのは、やっぱりあると思ったんです。それは「歌にはすごい力があるから、みんなで立ち上がれ!」じゃなくて、「歌を聞いていたら、なんかイヤになっちゃった」みたいな。
亮君:はい。
糸井:『MOTHER』というゲームは、どのくらい殴ったとか、何点とったとか、ふつうの勝ち負けだけじゃない、そういう世界の話にしたかったんです。ものすごく早い段階のときに、そうしようというのは決めてましたね。
(つづきは明日配信です)
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ケニーさんからのお知らせ!
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