防弾少年団「原爆Tシャツ騒動」を機に知っておきたい歴史の真実

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原爆で無条件降伏?

 韓国の人気アイドルグループ「防弾少年団(BTS)」の「原爆Tシャツ騒動」は日韓2カ国だけではとどまらない問題になってしまった。Tシャツ以外に、過去にナチスを連想させるファッションを披露していたことも判明し、ユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」までもが不快感を表明する事態にまで至ったのだ。BTSの所属事務所は13日、こうした一連の騒動について、不快感を与えたとして謝罪を表明した。

 問題となったTシャツのデザイナーは、韓国メディアの取材に答えて、悪意はなく、原爆が投下されて、日本が無条件降伏したことで、韓国が解放された、ということを表現したのだ、と説明したと伝えられている。

 ごく大雑把に言えば「原爆投下」→「日本の降伏」→「韓国解放」という流れは間違いではないのかもしれないが、実際にはこれは相当乱暴なまとめになっている、という点は、アンチもファンも知っておいたほうがいいだろう。

 まず、原爆投下によって日本が「無条件降伏」をしたというのは、二重に間違っている。有馬哲夫・早稲田大学教授は新著『原爆 私たちは何も知らなかった』でこの点を詳しく解説している。

 そもそも原爆投下以前から、すでに日本側は降伏のための交渉を進めていた。

「こういうと、欧米の研究者は、いや原爆の衝撃があったから天皇も指導者も降伏を選んだのだといいます。一種の原爆信仰です」(『原爆 私たちは何も知らなかった』より)

 こうした見方は、1945年7月26日にポツダム宣言を拒否したのに、8月6日と9日の原爆投下を経て受諾したところから来ている。

「これだけ短期間であれだけ頑なな日本がポツダム宣言の拒否から受諾に変わったのは原爆が効いたに違いないというのです。

 こうした論者に欠けているのは、日本の戦争指導者たちがどれだけ広島、長崎の状況を把握できたかという視点です。そもそも、当時の新聞は『焼夷弾爆弾』とか『新型爆弾』としか書いておらず、原爆とは書いていません。

 天皇は東郷茂徳(外相)から原爆については8月8日に知らされていましたが、頻繁に接触していた侍従武官長の蓮沼蕃は次のようにいっています。

『原子爆弾がそれ程大きな衝撃を陛下に与えたとはおもわれません。尤も陛下は科学者であらせられるから、原子爆弾の威力を熟知して居られたでしょう。

 併し8月8日、9日頃までには未だ広島の情報は十分わかりませんでした。従って陛下にそれほど大きな衝撃を与える迄に至っていなかったと思います』」

 当然のことだが、当時は今のように情報は素早く伝わらなかった。

 原爆投下と終戦を直結させるのは、「原爆投下がなければ戦争は終わらなかった」という論理、すなわち原爆投下を正当化させたい人たちの論理だ、と有馬氏は解説している。

無条件降伏という非常識

 韓国メディアの報道によれば、Tシャツのデザイナーは「日本は無条件降伏をした」と述べているとのことだが、これもまた乱暴すぎる「歴史認識」だろう。日本でも多くが、我が国はポツダム宣言を受諾して「無条件降伏」をした、と捉えているが、これ自体が実は問題だ、という指摘がある。というのも、そもそも「無条件降伏」などというものは当時、国際的に存在していない概念だった、というのだ。同じく有馬氏の著書(『歴史問題の正解』)から引用してみよう。

「国際法の観点から見た場合、『無条件降伏』を相手に求めるというのは、当時も今も、相当異常なことだ、ということは理解しておく必要がある。

 近代の戦争においては、降伏した国から主権や基本的権利を奪うことはできず、まったくの無条件ということはありえない。もしあるならその国民を皆殺しにし、領土をすべて奪ってもいいことになる。(略)

 大西洋会談では、すべての国には政体選択の自由、領土保全、交易の自由があり、敗戦国も例外ではないとしている」

 実のところ、ルーズヴェルト米大統領が「無条件降伏」と口にしだした時には、当のアメリカ軍人ですら、戸惑ったという。ではなぜそういう言葉を使ったかといえば、主にアメリカ国内での国民受けを狙ったからに過ぎない。そして実際に、日本は降伏したし、占領もされたとはいえ、皇室は存続し、国家としても生き残った。

 要するに「原爆投下で終戦になった」も「日本は無条件降伏した」も、アメリカにとって都合のよい歴史観をなぞったにすぎず、事実とは異なるということのようだ。

 もちろん「いや、そうではない」という異論を唱える向きもいるに違いない。歴史問題についての議論は自由に行われればいいだろう。

 しかし問題は、BTSにもデザイナーにも、これがそうしたデリケートな問題をはらんでいるという認識がなかった点だろう。ファンにせよアンチにせよ、アイドルがこういう問題に絡むことを望んでいる者は少ないのではないか。

デイリー新潮編集部

2018年11月15日掲載