福原愛引退 日中でのイメージ戦略に見る本当の「強さ」とは

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福原選手の本当の強さが垣間見えた日中戦略

 女性アスリートの化粧が上手になったり恋愛が発覚したりすると、「チャラチャラするな、そんなヒマあれば練習しろ」と反感を買う。一方で近年は、メダルを獲っても「でも所詮ブスだし」とネット上で貶められるのも見る。「ブスのくせに色気づいて調子に乗るな」という合わせ技さえある。個人の感情より、常にスポーツを優先すべき。だけど、女性たるもの見た目もそれなりであれ。こんな空気は理不尽だしつらかろう。それでも福原選手は、その声をバネにするかのように、優れたバランス感覚を見せてきた。

 なおブログや会見では「自分が卓球界を背負わずとも、有望な後進が育ったので使命は果たせた」と述べている。よくアスリートの引退宣言にある、「疲れた」「モチベーション低下」などの言葉は見当たらない。例えば浅田真央や浅尾美和は引退の際、「選手として続ける気力がなくなった」と語った。しかし福原選手は違う。「私」の都合ではなく、業界がひとつの成熟を遂げたのを見届けたから身を引くという献身の姿勢。それはアスリートとして文句のつけようのない、ひとつの美しい幕引きだろう。一方で、最後の最後まで世間が求める「あるべき姿」を読み取りつづけた哀しさを見るのは深読みがすぎるだろうか。

 しかし、私は彼女の強さも同時に感じる。日中でのイメージの使い分けである。中国の微博(中国版ツイッター)では、可愛さをアピールするような自撮り写真も多く、人気を博している。台湾では、キスシーン連発の夫婦生活密着ドキュメンタリーもあった。この報道が日本で行われた際、うんざりしたという声も多く上がったと聞く。

 だから日本向けのメディアでは女の部分を出しすぎず、清く正しい女性アスリートとして引退をしめくくった戦略はさすがと思うのである。メディアにしっかり感謝を述べ、Tリーグも宣伝し、母親とダブルスがやってみたいとはにかむ。でも、女性として可愛く見られたいという欲望は絶対あきらめない。だから中国や台湾にも軸足を置き続ける。そのたくましさこそが、彼女がもつ本当の類いまれなる強さではないか。

 彼女は今後、日本では多くを語らず謙虚さを保ち、中国では自撮り写真をどんどんアップし続けるだろう。もう「泣き虫愛ちゃん」はどこにもいない。金メダル級のメンタルの強さで突き進む福原愛の第二の人生を、注意深く見守りたい。

(冨士海ネコ)

2018年10月26日掲載

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