壇蜜さんは、役にぴったりの「きれいな耳」でした 壇蜜×筒井ともみ「食べる女」公開記念対談(上)

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雪をかきわけ撮影

〈ピクニックで行った先の芝生の上で、壇蜜さん演じるツヤコはワインを飲み、娘を胸に抱き涙を流す。しかし、そのシーンの撮影の裏側は意外にも寒さとの戦いだったそうだ。〉

壇蜜 そういえば、あの撮影の前の日、大雪だったんですよね。子役の女の子の足がどんどん変色していって、心配で心配で。

筒井 初夏のシーンだったのに雪が積もっちゃったから、助監督さんたちが頑張って雪かきをして、あの芝生が現れたの。

壇蜜 映画の現場って、本当に大変だな、と実感しました。

筒井 衣装も夏服だったから、相当冷えたでしょ。

壇蜜 それが私、凍えているちびちゃんたちを守らなきゃ、って気持ちがあったからなのか、まったく寒さを感じなかったんですよね。あれこそが、自分よりも子どもを第一に思うという母親の気持ちなのかもしれませんね。

筒井 きっとツヤコのキャラクターが壇蜜さんに乗り移ってたのね。迫真の演技でした。

壇蜜 「食べる女」に出てくる食べものって、どれもおいしそうですが、それだけじゃなくて、とても深い意味が込められている気がしました。

筒井 深い意味?

壇蜜 料理のできない主婦を演じたシャーロット・ケイト・フォックスさんが小料理屋の女将である京香さんに教わったおひたしは、夫を見返すきっかけになったし、山田優さんの作るピクルスには「愛情も長く保存できたら」という願いが込められていた。料理が願掛けだったり、ジンクスになってるんですよね。彼女たちは、「食べもの」に、単なる肉体を維持するものや味を楽しむものとして以上の、神聖な思いを込めてるんじゃないかな。

筒井 分かってくれました? 広瀬アリスさん演じる女の子が、手軽なひき肉料理と、すぐ男と寝てしまう自分を重ねて、「今度の相手とは長続きするように、ひき肉じゃなくて塊のお肉を食べさせてあげよう」と決意するのもそうなの。

壇蜜 あれもとてもセクシーでチャーミングなエピソードですよね。

筒井 なんといっても象徴的に使われているのは、人生の転機に女たちが食べる玉子かけごはんね。

壇蜜 あのシーンをみて、玉子かけごはんを食べたくならない人はいないと思います。それで思い出したんですが、私の友人には、財布をなくしたからドリアンを食べた、って人がいて。

筒井 どういうこと?

壇蜜 あの臭いものをたいらげることが、もうこれ以上失敗しないぞ、と自分を戒める儀式なんですって(笑)。

筒井 変わった人ね(笑)。

壇蜜 そうかも。でもそれだけ、「食べもの」には人を励ましたり、奮い立たせたりするパワーがあるんだな、と思ったんです。

(2)へつづく

壇蜜(だん・みつ)
1980年秋田県横手市生まれ。タレント。「サンデージャポン」(TBS)、ラジオ「壇蜜の耳蜜」(文化放送)などにレギュラー出演。著書に『たべたいの』(新潮新書)他。

筒井ともみ(つつい・ともみ)
東京生まれ。脚本家、作家。「響子」「小石川の家」で向田邦子賞を、「阿修羅のごとく」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。著書に『うつくしい私のからだ』(集英社)などがある。

週刊新潮 2018年9月27日号掲載

映画「食べる女」公開記念対談「壇蜜vs.筒井ともみ 『小泉今日子』『沢尻エリカ』も赤裸々だった『食欲の秋 性欲の秋』」より

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