ボランティアの“勝手な排水”で混乱も… タイ洞窟「決死の救出作戦」舞台裏

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タイ洞窟「決死の救出作戦」舞台裏(上)

 首都バンコクから北へ800キロ余り、ミャンマーとの国境近く。チェンライ県にある鍾乳洞「タムルアン洞窟」が、今回の事故現場である。タイ海軍の特殊部隊が、少年らの岩場に向けて潜水救助を決行したのは8日午前10時(日本時間正午)のことだった。現地に駐在する記者が言う。

「前日の7日には、県のナロンサク知事が『今後3~4日が(救出には)適切な時期』と話していました。その後に予想される大雨を見越していたのですが、7日の夜から未明にかけて激しい雨が降ったことで、決断は早められた。子どもたちの体調もさることながら、洞窟内の酸素濃度が、皮肉にも救助隊の活動などで15%にまで低下(通常は約21%)する危険な状況にあった。当局としては、ぎりぎりの判断だったのです」

 不慣れな潜水具を身にまとった少年らは、それぞれ熟練のダイバー2人に付き添われ、およそ5キロ離れた洞窟の入り口へと向かった。そして、8日夜には相次いで4人が生還。発生から2週間余り、事態は大きく進展し、10日に13人全員の救出が完了したのである。

 そもそも、こうした決断に至るまでには、様々な紆余曲折があった。

「タイは6月から雨季に入り、大体10月末まで続きます。24時間態勢の排水活動で洞窟内の水位は1時間に1センチずつ下がっていた。当局の説明などでは1日あたり1万立方メートル(1千万リットル)の水が排出され、これまで合計で1億3千万リットルを超えたということでした」(同)

 が、雨季のまとまった降水量は、それをはるかに上回るという。タイの河川や水理に詳しい中央大学の山田正教授によれば、

「タイの年間降水量は約1千ミリメートルと、1300~1400ミリメートルの日本より少ない。ですが、約9割が雨季に集中しています。1日に1万立方メートルと言っても、1秒で115リットルほどしか排出できない計算。鍾乳洞の場合、岩盤の中に何万年もかけて作られた水道(みずみち)があることが多く、天井や横の壁からも水が浸み出してくる。この排出量では、殆ど効果はなかったはずです」

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