JGTO会長「2期目」青木功が目指す「男子ゴルフ改革」

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 2016年、男子ツアーの選手たちや関係者などから強く推され、現役のプロゴルファーのまま国内男子ツアーを統括する日本ゴルフツアー機構(JGTO)会長に就任した青木功プロ(75)。日本人初の米ツアー優勝、海外19勝(シニア含む)など通算90勝を記録し、2004年には日本男子初の「世界ゴルフ殿堂」入りを果たしたレジェンド会長誕生と話題になった。

 そして今年3月19日、改革の方向性が支持されて再任。任期2年の2期目に入った。

 今年1月には、主戦場を国内に戻した石川遼プロ(26)がジャパンゴルフツアー選手会長に就任。青木会長の再任と同時に、史上最年少のJGTO副会長にも就任したことが、さらに注目を集めた。

 発足した新体制で今季、どういう改革に取り組むのか、その意気込みを青木会長に聞いた。

おれもやるからきみたちも

 会長を引き受けたときが73歳だったけど、正直、自分からやりたいと思って引き受けたわけじゃない。ただ、何年も前から若い選手たちや関係者から言われ続けてきて、やっぱり自分自身がこれまで先輩や周囲の人たちに散々助けてもらってきたんだから、そういう恩をもうそろそろゴルフ界に返さなきゃならない時期がきたんだなと思って引き受けたわけ。

 もちろん、会長としての日常の仕事は大変ですよ。内部の会議や毎回のトーナメントで全国各地の主催、協賛企業の方々との打ち合わせに飛び回らなくちゃならないし、公的な行事も多い。デスクワークもあるしね。本当に忙しそうで大変ですねと言われるけれど、そういうことを覚悟したうえで引き受けた。おれなりに覚悟を決め、腹をくくってこの2年間取り組んできたんです。

 やりながら、いろいろと悩むこともあったし、体力的にもしんどく、痩せもした。

 選手たちは、青木が会長になったら試合数も増えるだろうって単純に期待していた面もあったと思う。でも、いまのゴルフ界を取り巻く環境はそんな生易しいものではない。スポンサードしてくださる企業の側にとっても、景気が上向きつつあるという状況はあるかもしれないけれど、だからこそトーナメントを主催しようとか協賛しようという点で、その効果というものにより厳しい目線で考える方向になっている。青木が会長になったからというだけで簡単にスポンサー企業が増えるなんてことはないわけです。

 それでも、この2年でいろいろなスポンサー企業の方々と話をさせてもらって、少しずつ、おれの取り組みを理解していただけてきたかなという感触はあります。

 1年目は「人を育む」、2年目は「共に歩む」というスローガンを掲げてやってきたけれど、心がけていたのは、おれ自身が選手たちのなかに入って、溶け込んで、一緒に育って一緒に歩んでいこう、ってこと。

 実際、選手たちにもよく言ってきたのだけど、おれはおれのできることを死にもの狂いでやる。それは必ずきみたちのためになることだから、きみたちもああだこうだ言わないで一緒に動いてくれ、一緒にやってくれと。おれを選んだのはきみたちなんだから、とにかく、それは嫌、あれはダメとか言わずに動いてくれよってことを常に言ってきた。

 おれ自身は、少なくともこれまでのゴルフ人生では、有言実行を貫いてきたという自負がある。日本が好景気でゴルフ界もいまより試合数も多くて活気があったころ、敢えてアメリカに行って挑戦した。せっかく日本で盛り上がっているんだからそんなことしなくてもいいのにって言われたりもしたけど、世界ではどんなゴルファーが戦ってるのか、どんなゴルフをしてるのか、どんなコースがあるのか、おれは好奇心が強いから自分で試したくて、やると明言してやってきた。そうやって世界に出たことで視野が広がったし、結果的にそういう経験がいまのおれを作り上げたのだと思うわけ。

 だから、会長としても、やると明言したことはやる。だからきみたちもやってくれ。そういう思いなんですよ。

選手たちも意識を変えろ

 会長を引き受けて以後、人の上に立つことの難しさは痛感します。みんなを説得して、同じ思いで同じ方向に歩んでいく。それを引っ張っていくことの難しさは、ほんとに半端じゃないね。おれのなかであれをやりたいこれを改革したいという具体的なプランはいろいろあるけれど、この2年間で取り組めたのは、せいぜい2割くらいかな。そりゃね、そんな取り組み、2年やそこらでできっこないですよ。それくらいの改革をやろうと思っているんだから。選手たち自身の意識も含めた改革ですからね。

 そもそも、プロゴルファーって、おれ自身も含めてみんなわがままなんだから(笑)。だって、自分が勝つために自分の信じたやり方で戦ってるわけだから、我が強いのは当たり前。そうでなきゃプロとして上に行けないんだから。

 そういう選手たちを説得し、束ねて、同じ方向に向かわせるなんて、言葉で言うのは簡単だけど、並大抵のことではないですよ。選手たちの人数で言えばそれこそ200人くらいはいる大会社ってことになるわけですよ、JGTOも。そういう組織を束ねて引っ張っていく能力なんて、本来はおれにはないんだもの。そういう柄じゃないしね。でも、引き受けた以上はやる。やる以上は、そこまでやるのって言われるくらいやりますよ。

 選手たちの意識という面で細かいことを言えばね、まずはちゃんと挨拶をしなさいってこと。きみたちがプロとして試合に出られるのは、それで賞金を稼いで生活ができているのは、その試合を主催、協賛してくださる企業の方たち、ボランティアで運営を支えてくれる人たち、そしてお金を払って観戦にきてくれるギャラリー、ファンの方たちのお蔭なんだよ。そういう人たちに挨拶のひとつもできないでどうするの。礼儀をわきまえないでどうするの。たとえばスタートホールのティグランドには、スポンサー企業の方々も座っているテントがあるけれど、最初にそこに自分から挨拶にいきなさい。あるいは、トーナメントでは毎回、予選前日にスポンサー企業やその取引先を招いたプロ・アマのラウンドをやります。もちろん選手にとってはそのコースでの本番に備えた練習ラウンドにもなるのだけど、一緒にラウンドするアマの人たちにとっては滅多にないプロゴルファーとのラウンドなのだから、いろいろアドバイスも受けたいだろうし、話もしたいわけでしょう。そういう場だっていうことをもっとちゃんと意識しないとだめ。自分だけの練習ラウンドのつもりで一緒に回ってるアマの人と話もしないというのでは、その人たちも何のためにお金出して回ってるのか、せっかくスポンサーとして応援しようと思ってやっているのに面白くないし気分も悪いじゃない。だったらもう応援したくないなってなるじゃない。実際、企業の方たちと話をしていて、いろいろな要望を聞く際にそんなことを言われると、本当にドキッとします。だから、まずはそういう部分での意識も自分たちで変えていかなきゃならないよ、ということを選手たちにはかなり言い続けてきました。そこはようやく、少しずつではあるけれど変わってきたね。おれが言ってること、やろうとしてることを分かってきてくれてるなと感じられるようになってきて、それが嬉しいね。

石川遼への期待

 今年から石川遼プロが選手会長になった。そしてJGTOの副会長としておれを支えてくれる。年齢的に言えば、息子というより孫の世代。今回、一緒にやるにあたって時間をかけてじっくりといろんな話をしたけど、何とか孫と一緒に新風を吹かせたいね。

 もちろん、遼には大いに期待している。ただ、選手会長とプロゴルファーの二足のわらじは、遼にとってはかなり大変だと思う。選手会長としての役割、仕事は、プロゴルファーとはまた別の大変さがあるからね。本来なら、二足のわらじは履くべきではないと思うよ。これは遼個人のことではなく、組織、仕組みの問題という意味でね。おれだって、自分にはそんなの無理だと思っていたし、選手会長をやらずにいられたからプロとしてここまでやれたのだと思うし。

 前任の宮里優作プロ(37)は、確かによく頑張ったと思う。選手会長をやっていた昨季は、賞金王も獲得した。選手会長が賞金王というのは史上初だと話題になったね。でも、あれはほんとうにレアケース。優作の意地と頑張りがあったからで、決して選手会長の仕事がラクだったからとか手を抜いていたからではない。おれも会長やってつくづく思うけど、どんな組織でも上にたってやるのは本当に大変。

 遼自身は、「1試合でも増やす、テレビ視聴率を1%でもあげる。そして個人的にも、優作さんを目指して賞金王を目標にしたい。とにかく“1”をテーマに取り組みます」と抱負を語っていたけど、おれもある意味、おれにできることで彼をフォローしてやりたいと思ってる。何か個人的にプレーのこととかでも悩みにぶつかったりしたら相談に来いよ、全体のことも相談しながら一緒に盛り立てていこうなと本人にも言いました。彼はすごくかしこいから選手会長の仕事もちゃんとこなせるだろうけど、若い分、経験は少ない。そういう面でおれがフォローできる部分があるかもしれないしね。ま、じいちゃんが孫に言い聞かせてるような感じだけど(笑)、二人三脚でやっていきますよ。

世界記録への挑戦

 おれ自身のことを言えば、もちろん、選手としてやりたい。試合に出たい。でも、会長という仕事を引き受けた以上、いまはそういう個人の気持ちは抑えなきゃいけないときだと思う。試合に出るってことは考えちゃいけないのだと思ってます。実際、会長として机に座ったり立ったりする毎日を送っていて、会議や打ち合わせや企業を訪ねたりしていて、それで試合に出られる身体を作って練習もして、なんてことは体力的に厳しい。だって75歳だもの。そんなに体力有り余ってるわけじゃないよ(笑)

 確かに、ファンの人たちは選手としてのおれのプレーを期待してくれているかもしれない。おれ自身にも、やりたい気持ちはある。でも逆に、だからこそ、ファンの人たちにみっともない姿は見せたくないから。もちろん、年齢とともに体力が落ちていくことは仕方がないし、自分でも感じている。それがプレーに影響もすることは分かっている。それだけに、やるからにはベストのコンディションでやりたい。プロであればそうあらねばならないと思ってる。そのために自分では体力的な面でもがいているけれど、そういう姿は、これまで応援してきてくれた人たちには見せたくないからね。

 それに、おれが試合に出ないことで、空いた枠に若い選手が出られるかもしれない。その選手がその試合に出られたことで大きく羽ばたくということもあるかもしれない。「人を育む」というスローガンを掲げておいておれが自分のことだけ考えていたら、若い人もついてきてくれないでしょう。青木は自分の気持ちを抑えてやってる、じゃあおれたちも頑張ろう、って若い人たちが思ってくれればうれしいしね。

 まあ、おれもこれまでにもう1275試合くらいやってきたしね。ただ、アメリカのミラー・バーバー(2013年死去)という大選手が、シニアを含むツアー大会に通算で史上最多の1297試合出場という記録を作ってるのよ。その記録を抜きたいなとは、何年か前からは思ってやってきてた。そりゃ、ただ出るだけなら出られるよ。永久シード持ってるんだから。でも、出るからには自分のゴルフに挑戦したいし、勝ちに行けるゴルフをしたいじゃない。その上で記録を抜きたい。だって世界記録ですから。

 もしかするとね、会長を引き受けていなかったら、それまでのように試合に出ていたら、今季あたりで世界記録を抜いていたかもしれない。ひと口に1300試合って言っても、大変な記録ですよ。1試合で1週間かかるんだから、1300週を必死でやり抜くわけですから。

 でもね、そういう意味では、まさにこういうタイミングで会長を引き受けることになり、再任もした。これも青木功の人生なんだなあと思いますね。

(『週刊新潮』4月12日号には、カラーグラビアで青木会長と石川遼副会長の話、そしてトーナメントの案内が掲載されています。併せてご覧ください)

内木場重人
フォーサイト編集長

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Foresight 2018年4月5日掲載

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