大谷翔平を「誉めたことがない」 日ハム・栗山監督が語る5年間のプレッシャー

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栗山監督が初めて明かした「大谷翔平」謎に包まれた「趣味」「彼女」「クリスマスの夜」(下)

 メジャーリーグに挑戦する大谷翔平(23)の素顔を、日本ハムの栗山秀樹監督が初めて明かす。酒は呑めないのではなく「呑まない」、クリスマスイブの夜も1人でバッティング練習、そして恋愛沙汰が報じられたことはゼロ……。とびきりの優等生としか映らない大谷だが、時に感情を露わにする場面もあったという。

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 感情はマウンドにいる時だけ見せるんです。「交代だぞ」と言っても、「絶対代わりません!」ということは何度もありました。チームでは方針として「もう1回だけ投げさせてください」はなし、としています。それでも「泣き」を入れてくるのは翔平だけ。投手の時は戦うモードになってしまって周りが見えなくなるんでしょうね。それはそれで良いんですが。

 逆に打者の時は素直。何でも言うことを聞きますし、向こうから「送りましょうか?」とバントを申し出ることもあるくらいです。

 彼の性格で弱点、と言うより、心配したのは、やり過ぎてしまうこと。「無理です」と言えないことでした。

 こちらが出した宿題は何でも「やったります」と言ってしまうんです。極端な話、「全試合打者として打席に立って、ピッチャーもこなせ」と言えば、「わかりました」となっちゃうタイプ。

 ですから、今年、怪我をして1軍に帰ってきた時も「大丈夫です」と言って、トレーナー室の前で走っていましたからね。それを聞いて「ふざけんな。やめさせろ」と言いましたけど。その性格の上に、2つのことをやっていますから、やはり怪我が一番怖かった。

 メジャーに行くと、内角攻めが厳しくなる? う~ん、ピッチングコーチの(元メジャーリーガーの)吉井(理人)に聞くと「変に当てたりはしませんよ」と言いますし、その辺りは行ってみないとわかりません。

 日本では確かにデッドボールは少なかった(編集部注=5年間で4回)。見ていると、ピッチャーが絶対当てないようにしようとしているのがわかりましたね。バッターボックスで翔平を見た時、懸命さが伝わってきて、みんな「当てたくないな」と思うのではないでしょうか。それに、本人には、もしカッとしてもそういう表情は見せるな、と言ってきました。「睨んだりして恨まれるのは自分なんだから」と。また、こちらでも、当てられにくい空気を作るようにしていました。わざと「あのピッチャーは良いですよね。翔平のことを考えてしっかり勝負してくれるし」などとコメントしてね。でも、もしアメリカで厳しい内角攻めがあるとすれば、それは越えていかなければならない壁だと思います。

誉めたことがない

――ここまででわかるように、監督の大谷への評価は極めて高い。まるで子どもの成長に目を細める父親のようである。しかし、相対する場面では、意外にもほとんど誉めたことがないのだという。

 ほとんどと言うより、一回も誉めたことがないと思います。15年のシーズンも、バッターとしての成績が良くなかった(打率2割2厘、本塁打5本)。だから、「これじゃ2つ出来ねえよ! 何とかしろ!」とはっぱをかけました。「二刀流になんねえんだ」と。

 翔平にいつも言っていたのは、「いつも100点取れる奴が90点でした。テストが難しくて他の人が30点でした」という時に、「それでいいのか」「周りは関係ないだろう」ということ。いつも100点取れる奴が10問も間違えて良いのか。「4打数2安打でした」「試合には勝ちました」と言うのであれば、「でもそれ2回アウトになっているだろ。それも打てるはずだよね。そんなんで良かったと言ってる場合じゃないだろ!」と。それは彼が持っている能力への信頼でもありました。翔平は力をまだまだ全部出しきれていないと思うから。それを最大限引き出すのが、我々の仕事でした。

野球と翔平のこと以外は考えなかった5年間

――大き過ぎる才能を預かったがゆえに、栗山監督は、この5年間に感じたプレッシャーはあまりに重かったと回想する。

 もし翔平に何かあったら、それは僕が責任を取れる話ではないですからね。僕が監督を辞めて済む問題ではない。何かあったら……と、その感覚、その怖さというのは……言葉で表現できないですね。自分の何倍も人のことを考えた経験はなかったですからね。それはそれで幸せだったと思いますが、野球と翔平のこと以外は考えたことのない5年間でした。ですから、冗談ベースで言えば、今回のメジャー行きでホッとしたところはあります。でも、また新しいの(=清宮幸太郎)が来た……これも命がけで行かなくてはと思っていますけどね。

 翔平はメジャーに行った。これからは彼を誉めるか? いや……それはないでしょう。本人にも言ってあるんですよ。「これからも、たぶんカチンとくることしか送らないけど、一応読めよ」と。翔平は「どうせそうでしょう」って笑っていました。これからはあまり彼に厳しいことを言う人がいなくなってしまうと思う。だから、もう翔平が僕のことを大っ嫌いになるくらいに言い続けてあげることが使命だと思っています。

 そうですね、あえて誉めるとしたら……ワールドシリーズを大谷1人で勝った、と言われた時くらいですかね。それはすなわち我々が彼を「世界一の選手になる」と信じたことの証明になりますので。でもその時もまあ「良かったな」くらい。本当に誉めるのは、引退した時でしょう。「監督、僕どうでしたか」と聞いてきた時。それまではまだ……。

 それくらいの選手なんですよ、大谷翔平という男は。

週刊新潮 2018年1月4・11日号掲載

独占手記「『栗山監督』が初めて明かした! 『大谷翔平』謎に包まれた『趣味』『彼女』『クリスマスの夜』」より

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