嫌老社会で「被差別高齢者」にならないためのサバイバル術 和田秀樹が説く

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

上司に媚びて出世しても

 たとえば看護師。給料は比較的安定しており、訪問介護もできる。いまは70代で働いている看護師も多い。宅建士や介護のケアマネージャーもいいだろう。

 私は国際医療福祉大学で、臨床心理士の資格を取るために2年間通う大学院の特任教授を務めているが、毎年、定年退職後の60代が2、3人入学する。さらにいえば、みなさん若者に囲まれてすごすうちに、若返ってくるのだ。だから、これまで経理の仕事に携わっていた人が簿記や税理士の資格を取るために学校に通って、周りの若い人に経験に即した教えを授けるうちに、自分も若返る、というようなことも期待できる。

 次に、まだ定年を迎えていない方は、企業のなかでスペシャリストになることだ。AIなどが進化する将来は、日本の企業でもゼネラリストが求められるだろうが、いまはスペシャリストが必要とされている。だから、社内で「これはだれにも負けない」という専門性を持てば、定年後にも活かすことができる。

 だが、それが難しい場合、たとえば50歳をすぎたら、取引先など外部との人間関係を強めることに注力したほうがいい。定年後にスムーズに再就職できた人は、取引先に拾ってもらったケースが多いのだ。

 そもそも現役時代、上司に媚びて出世した人は、自分が年をとったとき、後ろ盾がない。病院で見ていても、そういう人はお見舞いに訪れる人が少ない。一方、部下など自分より下の人間を大切にしてきた患者さんのもとには、いろんな人が訪れる。そういう点も踏まえて、人と接するように心がけたほうがいいだろう。

 また、経済的に困っておらず、働く必要がなくても、働くのと等しい効果を得る方法はたくさんある。一例が保育や教育だ。たとえば、子供を難関中高一貫校に合格させた人なら、周囲が前向きな気持ちで子供を預けてくれるだろう。三重県でデイサービスセンターに学童保育が併設されたことがあったが、軽い認知症の人が子供に勉強を教え、子供の学力も上がり、双方によい影響が出たという。

 娘や嫁が働いているなら、孫育てもいいだろう。子育てに慣れていない両親よりも経験があるぶん、余裕もある。このように収入に結びつかなくても、だれかの役に立つために自分の知恵や経験を活かすべく社会参加を続けることが、若さを維持する秘訣だと思う。

(下)へつづく

 ***

和田秀樹(わだ・ひでき) 精神科医。1960年、大阪府生まれ。灘中高を経て東大医学部卒。和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学大学院教授。高齢者専門の精神科医として長年、高齢者医療の現場に携わってきた。『「高齢者差別」この愚かな社会』など、著書多数。

週刊新潮 2017年11月9日号掲載

特別読物「『嫌老社会』で『被差別高齢者』にならないための7カ条――和田秀樹(精神科医)」より

前へ 1 2 3 4 次へ

[4/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。