北朝鮮の米国向けミサイル迎撃なんて出来るわけがない──元陸上自衛隊トップが指摘する「軍事のリアル」(2)

政治2017年11月22日掲載

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 北朝鮮情勢の悪化に関しては、多くの国民が不安や心配を抱えているだろうが、一方で「安倍政権が危機を煽っているだけだ」といった見方をする人も根強く存在する。世論の受け止めがどうあれ、安倍総理が一貫して北朝鮮の脅威を真剣な課題として受け止めていたことは間違いない。

 2007年4月、第1次安倍政権は、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」を発足させ、集団的自衛権の解釈見直しに向けた議論を開始させた。安保法制懇は当初、集団的自衛権の解釈見直しに向けた「事例研究」として、4つの事例を挙げたが、その中には「米国向けの北朝鮮の弾道ミサイルを日本のミサイル防衛システムで邀撃する」という項目もあった。「集団的自衛権」論義は、当初から「北朝鮮のミサイル対策」を意識したものでもあったのである。

米国向けミサイルはそもそも日本の本土上空を飛ばない

 その危機感は確かに真っ当なものだろう。しかし、実際に有効な対策を打てるかどうかは別の話になる。陸上自衛隊トップの陸上幕僚長を務めた冨澤暉氏は、近著『軍事のリアル』の中で、「そもそも日本のミサイル防衛では、北朝鮮の米国向けミサイルを撃ち落とすことはできない」と述べている。
 
 理由は単純だ。仮に米国向けのミサイルが北朝鮮から発射されるとして、それは日本上空を飛ばないからである。

 ミサイルは通常、最短距離を飛ぶので、北朝鮮から米国本土に向かう時は、東部ロシア→アラスカ→カナダ→米国というコースになる。だから、そもそも日本上空を横切ることはない。無論、そのミサイルを日本から追いかけて撃つこともできない。航空自衛隊のPAC-3という地対空ミサイルの射程は20キロで、海上自衛隊のイージス艦搭載のSM-3ミサイルの射程は200キロだから、どちらもレーダーすら届かないし、ミサイルの速度は追いかける側の方が遅いのだ。

 それでも、「北朝鮮がグアム攻撃を想定して撃つミサイルは日本上空を飛ぶじゃないか」という議論はあるだろう。確かにその通りである。仮に北朝鮮がハワイのアメリカ太平洋軍を狙うなら、北海道・東北の一部を通過するし、グアムを狙うなら九州の東を通過する。実際、2017年の北朝鮮による「グアム攻撃案」では、島根・広島・愛媛・高知の上空を通過するとされた。

 しかし、こうした長距離ミサイルが日本上空を通過する時の高度は300キロから400キロに達する。かつて東北地方上空を横切った北朝鮮のミサイルは、秋田上空380キロ、岩手上空410キロの高度であったとの記録がある。射程200キロのSM-3で迎撃することは物理的に不可能なのだ。

「専守防衛」の限界

 そもそも、PAC-3やSM-3は「待ち受け兵器」であり、射撃陣地のまわりにある重要警護対象を護るものに過ぎない。そこで日本も、「艦艇搭載の非核巡航ミサイル(トマホークなど)を備えて、敵基地の攻撃能力を持つべきではないか」という議論が20年くらい前からくすぶっているが、日本の国是は「専守防衛」である。敵基地を攻撃する能力を保持することは、そもそも出来ないのだ。

 ところが、冨澤氏によると、その国是である専守防衛は「軍事的に成り立たない」ものであるという。

「如何にガードとジャブが上手くても、相手を倒すストレートかフックのパンチを持たないボクサーが勝てないのと同じこと。日本のように海に囲まれた国を完全に、攻撃手段を持たずに『専守防衛』で守ろうとすれば、天文学的な金がかかってしまう。それはできない相談だ」
 
 日本が「専守防衛」という「虚構」を維持出来ているのは、「自衛隊は盾、矛(槍)の役割は米軍が担う」という、日米ガイドラインで定められた約束があるからである。その約束が取り消されれば、「専守防衛」は成り立たなくなる。「専守防衛」の日本が、集団的自衛権に基づいて米国向けの北朝鮮のミサイルを邀撃することなど、どだい無理な話なのである。

デイリー新潮編集部