カメレオン俳優が素で熱く昆虫愛を語る姿に脱帽 「香川照之の昆虫すごいぜ!」(TVふうーん録)

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 昆虫の思い出。小学生の頃、確かカナブンにハマった。カブトムシやクワガタじゃなくてカナブン。早朝近所の県立公園へ母と一緒に捕獲に行った記憶がある。カナブンだけでなく、トレンチコートを着た露出狂にも遭遇した。昭和50年代の話だ。昔は虫も露出狂もそのへんにいたんだよなぁ。

 しかし、全般的には昆虫が苦手。特に長くてウネウネしたヤツは鳥肌モノだが、ゴキブリとは勇猛果敢に闘い、殺傷する。謎の家訓があってクモは殺さない(あ、クモは昆虫ではないけれど)。

 ただし、ひとりの男のお陰で「昆虫すごいぜ!」と思えるようになった。そう、その男、香川照之である。

 昨年10月、Eテレでまさかの冠番組「香川照之の昆虫すごいぜ!」がスタート。番組誕生の経緯は、TBS「櫻井・有吉THE夜会」での香川の発言だったという。「Eテレで昆虫番組をやりたい」と。さすがEテレ、好機を見逃さず、晴れて番組化。既に4回も放送し、人気番組となったのだ。

 とにかく香川照之が楽しそう。「昆虫には学ぶべきすべてが入っている」と熱弁を振るうも、そこはEテレらしく「以下・省略」と堂々と大幅カット。昆虫への愛と思い出と蘊蓄(うんちく)が止まらない香川をさらっといなすあたり、Eテレすごいぜ。

 番組内では香川はカマキリに扮する。しかもメス。着ぐるみで登場し、寺田心や若い女子(毎回変わるが顔が似てる&香川に対して案外ぞんざい)に「お母さんと呼べ」と強要する。着ぐるみは香川本人の監修で、かなり細かいオーダーにも対応しているようだ。バージョンアップしたり、色違いまで制作。Eテレの底力。

 毎回、一種の昆虫について学んでいくのだが、まずはその昆虫を捕まえるところから始まる。数時間ぶっ通しで捕獲に挑戦し、発汗と疲労と腰痛も厭わない51歳の香川。しかも諦めない。

 カメレオン俳優としての実力とキャリアは誰もが認めるところだが、捕獲に成功すると、今まで見たこともないような無垢な顔をする。少年のような無邪気な笑顔。

 また、ロケ中の道草喰いまくりの浮かれ感と、昆虫を見つける動体視力も止まらない。捕獲したい種類以外にも触手が伸び、ロケは長丁場。それだけではない。

 昆虫のジャンプ力や飛行力など基礎能力を思い知るために、自らクレーンに吊られたり、スタントマンとともに車で急旋回を体験したりもする。改めて昆虫のすごさを解説するためだ。

 とにかく香川の知識と昆虫愛が広く深く、教養番組として成り立つだけでなく、エンタメ番組、道徳番組、果ては環境番組としても成功しているところがすごい。

 オンエアではほぼカットされる講義部分も、非常に興味深い。話の逸れ方が尋常じゃない。頭がよくて語彙(ごい)が豊富な人の典型なのだ。

 一番好きなのは香川が昆虫の気持ちでしゃべるところだ。時折昆虫になりたいと漏らすところも切なくていい。昆虫ファースト、自然破壊反対。昭和ギャグも織り交ぜつつ、人間が昆虫から学ぶべき教訓に着地。すべて番組サイトで視聴できるので、ぜひ観てほしい。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年10月26日号掲載

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