藤井聡太四段も丹羽宇一郎も「読書家」……でも本って読む必要あるの? という問いに親はどう答えるべきか

ライフ2017年8月16日掲載

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 読書に意味はあるのか?

 伊藤忠商事元社長で、元駐中国大使でもある丹羽宇一郎氏の新著『死ぬほど読書』がベストセラーになっています。

 丹羽氏流の読書術を開陳したこの本の冒頭では、朝日新聞に掲載された大学生の投書が取り上げられています。「高校生の時まで読書は全くしなかった」というこの大学生は、それで困ったことがなく、「読書よりもアルバイトや大学の勉強の方が必要」だと感じており、読書をしなくてはいけない確固たる理由があるならば教えてほしい、と綴っています。

 これに対して、同書の冒頭で丹羽氏は、読書をすることで自分の「軸」を持つことができる、本当の知を鍛えることができる、それによって真に自由な世界へと導いてくれる、と述べています。

 もっとも、丹羽氏は1939年生まれとかなりご年配。

 件の大学生に読書の効用を説くには、もっと若い人がいいかもしれません。 

「天才棋士」として注目の藤井聡太四段の趣味も読書です。

これまでに伝えられた彼の愛読書は、沢木耕太郎『深夜特急』、椎名誠『アド・バード』、百田尚樹『海賊とよばれた男』。

年齢を考えると、かなり大人びたチョイスと言えるでしょう。

 丹羽氏や藤井四段に限らず、何らかの功成り名を遂げた人物の中には読書が趣味という人は少なくありません。

 ただ、冷静に考えると、そもそも読書をしたから頭が良くなったのか、もともと頭が良い子が趣味として読書を選ぶ傾向にあるのか、ここは難しいところです。

 丹羽氏は経験則から、読書で「知が鍛えられた」と考えているのでしょうが、ひょっとしたら本を読まなくても成功なさったかもしれません。

 それでも子を持つ親としては、わが子に読書を勧めたくなるというものでしょう。難関大学に合格した人の経験談でもよく「読書をしていた」ということが語られるからです。

 しかし、生意気にも「情報なんかネットで入れるからいいよ」「小説よりもドラマや映画をネットで視るほうが面白い」と言い返されたら、答えに詰まってしまうかもしれません。

 そんな時、どう言えばいいのでしょうか。

 今年4月に亡くなった、英文学者の渡部昇一さんは読書家として、また古書の蒐集家としても有名でした。その渡部さんが、「なぜ本を読むべきか」をわかりやすく書いた文章があります。

 子どもに聞かれたときの参考にもなるので、渡部さんの著書『知的余生の方法』から、抜粋・引用してみましょう。

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 サプリメントで人は生きられない

 インターネットの情報と、読書から得る知識とは本質的に違うのではないだろうか。

その違いを比喩で表現したら、食物とサプリメントの関係になるのではないだろうか。サプリメントは栄養を補うには実に便利な、また実に有効な方法である。

 例えばビタミンB1の錠剤があったら、「江戸患い」と言われた脚気もなかったろうし、日露戦争で数万の兵士が脚気で死に、十数万の兵士が脚気で戦えなくなることもなかったであろう。明治天皇ももっと長寿であられたことと思われる。

 サプリメントは実に有効だ。しかしサプリメントをいくら工夫して与えても、それだけでは子供が育つわけはないだろう。どうしても食物が必要である。

 しかし考えてみると食物には実に無駄が多い。お米やパン、納豆やサラダ、牛肉やマグロなどなどを食べるが、その大部分は糞として排泄される。糞というものが出るということは、人間は余計なものを摂取しているということだ
 
 本当に必要なものだけなら、点滴やサプリメントで十分だ。しかし子供が成長して大人になり、その大人も通常の仕事をして死に至るまでには厖大な糞を排泄し続けなければならないのである。

 無駄なものを噛み、排泄し続けなければ、子供の顎も歯も発達せず、胃や腸や、消化に関係する器官すべてが発達しないであろう。

 脊椎動物も腸から進化したという説が有力だ。腸が発達する機会を与えられなかった子供が育って、脳も働くということはないであろう。

 人間の知力も似たようなものではないだろうか。

 本を読めるようになるにはまず本で字を学ぶ。

 数学をやるには数学の本を読み、自分で計算することから始まる。和歌を作れるようになるには、まず和歌集を読むことからはじまる。

 自分の考える力や思想を作り上げるには、しかるべき本を熟読することが必要だ。そうして頭は作られる。

 このようにして出来上がった頭が必要とする情報は、インターネットで取る。体を作るのは食物で、それを補うのがサプリメントであるように。

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 もちろん、「そんなの古いよ」という意見の方もいることでしょう。

 しかし、渡部氏は86歳で亡くなる直前まで、最前線で言論活動を行ない、社会の様々な出来事に関心を持ち続けました。その基礎を養ったのが、本だったのもまた事実です。

 もっとも、子供に渡部氏や丹羽氏の名前を出しても効果は期待できないので、シンプルに「藤井君を見習いなさい!」でいいのかもしれませんが。

デイリー新潮編集部