発行部数2000万部! 全国民に影響を与えた「日本国憲法入門」
発行部数2000万部!!
日本国憲法、とりわけその9条に関しては、現実との乖離が甚だしいということで、改憲を求める声がある一方で、「9条だけは絶対に守る」という強い決意を持つ国民も少なくない。
前者、改憲派は後者、護憲派に対して「朝日新聞に洗脳されている」「護憲平和教」などと評することがあるのだが、このような憲法への信仰にも近い思いの原点はどこにあるのか。
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NHKが今年行なった世論調査では、男女ともに「憲法改正の必要なし」が「必要あり」を上回ったのは70代以上の世代だ。これはもちろん、戦争の惨禍を知る世代だから、という理由もあるのだが、もう一つ、重要な役割を果たした小冊子がある。
今では忘れ去られつつあるその小冊子の名は『新しい憲法 明るい生活』という。
配布したのは「憲法普及会」という組織。GHQの指導の下、憲法の「啓蒙普及活動 」を行なうのを目的に作られた。
日本国憲法発布の翌年、1947年に全国に配布されたこの小冊子の部数は何と2000万部というから凄い。ほとんどの国民が目にした大ベストセラーといっても過言ではない(無料だが)。
当時多くの国民が、この小冊子をもとに日本国憲法を学んだ。いわばGHQと日本国政府がお墨付きを与えた「日本国憲法入門」だったのだ。
はだか身で平和を守る
その甲斐あってか、この小冊子に書かれた内容は、今でも一定世代の胸には深く沁み込んでいる。70代以上に「護憲派」が多い一因がそこにある可能性も否定できないだろう。
憲法9条の知られざる側面に脚光を当てたことで話題となっている潮匡人著『誰も知らない憲法9条』では、この小冊子の中の「9条」関連の文章を紹介している。一部、抜粋してみよう(仮名遣いは現代仮名遣いに改めた)。
「私たち日本国民はもう二度と再び戦争をしないと誓った。
これは新憲法の最も大きな特色であって、これほどはっきり平和主義を明らかにした憲法は世界にもその例がない。
私たちは戦争のない、ほんとうに平和な世界をつくりたい。このために私たちは陸海空軍などの軍備をふりすてて、全くはだか身となって平和を守ることを世界に向かって約束したのである」
「新憲法ですべての軍備を自らふりすてた日本は今後『もう戦争をしない』と誓うばかりではたりない。進んで芸術や科学や平和産業などによって、文化国家として世界の一等国になるように努めなければならない。それが私たち国民の持つ大きな義務であり、心からの希望である」
「世界のすべての国民は平和を愛し、二度と戦争の起らぬことを望んでいる。私たちは世界にさきがけて『戦争をしない』という大きな理想をかかげ、これを忠実に実行するとともに『戦争のない世界』をつくり上げるために、あらゆる努力を捧げよう。これこそ新日本の理想であり、私たちの誓いでなければならない」
この文章を読んで、熱烈な護憲派の方は「まったくその通り! どこが間違っているというのか」と共感することだろう。
一方で改憲派の方々は、「全くはだか身となって平和を守る」「すべての軍備を自らふりすて」といった表現に嘆息してしまうかもしれない。安全保障の専門家である潮氏は、この小冊子の文章を「ツッコミどころ満載」と同書で評している。
客観的に見れば、当時は先進的だったかもしれない「平和主義」をうたった憲法は、現在ではさほど珍しくないというのが事実である。憲法典をもつ188カ国のうち、158カ国が何らかの表現で平和主義をうたっている。
さらに言えば、日本が「はだか身」となることが、世界平和につながるという考え方は、国際政治論の中ではかなり特殊だろう。「力の空白」が生まれることは、地域の不安定化につながるというのが常識である。
それでも現行憲法に全幅の信頼を寄せる高齢者が多い背景には、若き日に読んだ(読まされた?)、あの小冊子の影響がいまだにあるということなのかもしれない。