「てるみくらぶ」問題 海外旅行中に旅行会社が倒産したときにとるべき行動

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絶対原則は「お金よりモノより命」

 関連会社が破産するなど、まだまだ広がりを見せているてるみくらぶ問題。観光庁は先月26日の時点で、てるみくらぶを利用した旅行者約2500人が38の国と地域に滞在しているとし、安全に帰国できるよう対応を急いでいるという。記者会見での「すでに海外へ出国した人については、自力で対処してもらうしかない」という発表を聞いて、「こんなことってあるんだ……」と不安を感じた人は多いだろう。

 どんなに安全が謳われている旅行であっても、不測の事態が起こることはあるもの。これまでに陸路を中心とした世界一周旅行をはじめ100以上の国と地域を旅した経験を持ち、『世界のへんな肉』などの著作がある旅行ライターの白石あづささんに、もしもツアー客が海外で不測の事態に巻き込まれた場合に自力で対処する方法や、事前に備えるための注意点を聞いた。

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■絶対原則は「お金よりモノより命」

「まず、海外で絶対に忘れないで欲しいのは、命の安全が一番大事だということです」と白石さんは言う。

 お金やモノは新しく買い直したり、場合によっては帰国後に補償を申請したりもできるが、落とした命は返ってこない。 旅行先で不測の事態が起こった場合、“何より身の安全を最優先すること”は鉄則なのだ。

「日本は世界でトップクラスの治安のいい国です。深夜、タクシーに女性が一人で乗っても安全ですし、海外から来た私の友人は、ランチに行く日本のOLさんがお財布を手に外を歩いている光景を見て驚いていました。旅慣れた人であれば、その国の危険度を肌で感じることもできますが、旅慣れていない人は『ここは日本と違う』という意識を常に持ってほしいと思います」

 以下、ツアー観光客が不測の事態に巻き込まれた場合の対処法を見ていこう。

◆渡航先の空港に到着して、もしも予定されていた迎えが来なかったら?

電話をかけたりできるよう硬貨(コイン)をまぜてもらう

「日本からガイドが同行しているツアーはいいですが、現地で合流するはずのガイドが空港に迎えに来ていなかった場合、現地の言葉も話せず、携帯電話もなく、クレジットカードもない人はパニックになることでしょう。しかし、あわてずに対処してほしいと思います。まず、両替所でお金を替えてください。その際、電話をかけたりできるよう硬貨(コイン)をまぜてもらいます。おそらく日本のツアー会社から事前に現地の緊急連絡先が書かれた紙を渡されているはずです。これから行く人は、その電話番号が入っているか確認しましょう。公衆電話の使い方は空港なら英語の表記も大抵ありますが、分からなければ空港の職員をつかまえ、電話番号を見せてかけてもらってください」

◆電話に誰も出なかったら? もしくは今回のような事情で「迎えは来ません」と言われたら?

「もし到着時間が夜遅くだった場合は、決してあわてて空港の外に出たりしないでください。最近ではテロも多く、すべての空港内が絶対安全とは言えませんが、基本的には警備もされているので危険な目に遭うことはあまりないでしょう。迎えが来ないことを到着前に知った場合、手荷物だけの方はできればイミグレーションを通過しないでください。渡航者以外の客はイミグレーションの内側へ入って来ず、荷物チェックもあるので安全の確率が高いのです。

 もしイミグレーションを出た場合でも、空港の中は深夜の街やタクシーよりはずっとましですから、建物の外に出ないように。人数の多いグループや旅慣れている人、治安がよい街でしたら深夜にホテルまでタクシーを使っても問題ありませんが、基本的に旅慣れていない人が深夜のタクシーに乗るのはおすすめできません。カモになりやすく、違うところに連れて行かれたり、料金をぼられたりする可能性もあります」

◆空港では朝までどう過ごせばいいでしょうか?

トイレもひとりであればスーツケースは常に持ち歩きましょう

「『深夜に外へ出るよりはまし』と考えて、安全を確保しながら体力を温存しましょう。まず、空港の中にエアポートホテルやスパなどの宿泊施設があるかを案内所などで聞いてみましょう。クレジットカードの種類によっては空港のラウンジを使えるかもしれません。もしそれらがなかったり満室だった場合、24時間やっているカフェがあれば利用しましょう。カウンターの近くなど店員さんの目の届くエリアに座り、うっかり寝てしまってもいいように荷物はタオルやハンカチで手に縛っておきます。

 24時間のカフェがないときは、空港内の明るく家族連れが多いエリアなどで休んでください。私はそうしたエリアで、貴重品をジャケットの下にしまい、手荷物を枕にして長椅子などでよく寝ています。グループの場合、トイレは交代で荷物番をしながら行ったほうがいいですが、ひとりであればスーツケースは常に持ち歩きましょう。柱などにチェーンロックして出かけてしまうと、不審物に間違えられる可能性があります。また、親切そうな人にお菓子やジュースをもらってもその場ではお礼を言って食べずにしまってください。国や地域によっては睡眠薬強盗の可能性もあります。あまり警戒しても旅は楽しくありませんが、くれぐれも気を付けてください」

◆帰りの飛行機の予約は大丈夫でしょうか?

問題なのはLCC(格安航空会社)の場合。IATAに加盟していなければ、発券済みでも帰りの便をキャンセルされている可能性が

「IATA(国際航空運送協会)に加盟している航空会社であれば、例外はあるかもしれませんが基本的に一度発券されたチケットは帰りも乗ることができます。問題なのはLCC(格安航空会社)の場合です。IATAに加盟していなければ、発券済みでも帰りの便をキャンセルされている可能性があります。どちらの場合でも、到着したら空港を出る前にカウンターで帰りの便の予約を確認してみましょう。もし予約がなかった場合は、その場で購入するか、現地の旅行代理店を探して予約をとることになります」

◆空港から街やホテルまで安全に移動するには?

「予約しているホテルへ行くリムジンバスがあるかどうかを、空港内のカウンターで聞いてみましょう。なければタクシーで向かうことになりますが、自分でタクシーを拾うより、空港内にタクシーサービスカウンターがあれば利用したほうが安全です。それでもタクシーの中では寝ないこと。日中であっても気を抜くのは禁物です」

◆ホテルが無事に予約されているかどうかが確認できず、心配です。

「空港に着いた段階で、予約がとれているかを電話で確認できれば一番です。確認して予約が取れていなかったら取り直すか、空港のホテルサービスカウンターで別のホテルを予約できます。しかし、電話もできない、助けてくれる人もいないという場合は、直接ホテルに行って筆談や身振り手振りで交渉したほうが伝わります」

◆ホテルに到着したが、新たにお金を払えと言われたら? またその時、手持ちのお金がなかったら?

「本来であればすでに旅行客はツアー代を振り込んでいるので、ホテルが日本の旅行会社に取り立ててくれればよいのですが、間に現地の旅行社が入っている場合は日本の旅行会社の話をしてもホテル側にもどうにもならないことがあります。支払いが二重になってもいいから泊まりたいという場合は、とりあえず現状を言ってディスカウントできないか、または安い部屋はないか交渉してみましょう。もし手持ちの現金やクレジットカードがない場合、パスポートのコピーを渡して『帰国後、払う』とダメ元でお願いしてみてください。現地で払ったお金は戻ってこない可能性が高いと言われていますが、念のためレシートをもらっておいてください」

〈手持ちのお金がない場合:クレジットカードのキャッシングと日本からの送金方法〉

「出発前に、お手持ちのクレジットカードに海外でも現金を引き出せるキャッシング機能がついているかを確認しておいてください。先進国ならスーパーマーケットでもカード払いができますが、後進国ではそうはいかず、現金が必要です。

 ツアー客の中には、飛行機も宿泊も食事も先に払ってあるという安心感からクレジットカードを持たずに来る人や、ホテル代や飛行機代を払うほどの現金を持ち合わせていない人もいるかもしれません。その場合、日本から送金してもらいましょう。日本の各銀行によって現地の取引銀行が違うので、現地のどの銀行で受け取ればいいかを日本のご家族に確認してもらってください。もしくは、現地の日本大使館に行けば教えてくれるはずです」

◆そのほか、旅行へ行く前に気を付けることはありますか?

「たとえツアーであっても、地図や電話のかけ方などが載っている詳しいガイドブックは持って行ってください。また、簡単な辞書や会話集は持って行きましょう。発音ができなくても、単語を指させば相手に伝わります」

◆著書『世界のへんな肉』に出てくる海外のエピソードでも、一歩間違えば危険な事態になりかねなかったような場面がいくつもあります。普段から、トラブルを回避するためにどんなことに気をつけていますか?
「世界約100ヵ国も旅していると、よほど英語が堪能なのではないか?と言われるのですが、そもそもアフリカやユーラシアなどでは英語を話せる人は都会にしかおらず、少し田舎に行けばみな現地語なので、言葉が通じないのが普通なのです。でも、「困っている」ということはどこでも伝わるようで、中東の街の迷宮のようなバザールではよく迷子になって、店の人にホテルまで送ってもらいましたし、イランでは乗っていた長距離バスが明け方に到着したとき、隣に座っていたおばさんに手を引っ張られて自宅へ連れていかれたこともあります。私のことが心配で連れ帰ったのだと後にその家の娘さんから聞き、ほっとしました。すべてを疑ってはキリがないので、その時は自分の直感を信じてお世話になりましたが、声をかけてくれる人が信じてもよい相手かどうか、警戒心は必要です」

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 白石さんは最後に「今回、被害に遭われた方は大変ショックだと思いますが、無事に帰国できることを願います。また、旅行先で困っている日本人を見かけた方は、声をかけてみてあげてください」と述べていた。今後、旅の体験を語るトークイベント等でも、安全対策については積極的に発言していくという。

 旅行先の国や地域、利用した旅行会社によって必要な対応はかなり異なり、注意が必要だが、どんな場合にも言えることは「たとえツアーであっても旅行会社に任せきりにせず、旅行先の基本的な情報は自分で抑えておくことが、いざという時に身の安全を守ることになる」ということ。海外旅行は非日常を体験できる機会だが、非日常はつねに非常時と隣り合わせでもあるということを心に留めたい。

 白石さんは4月14日(金)に「旅の本屋のまど」にてトークイベント「世界の珍しい肉を巡る旅」を開催する。( http://www.nomad-books.co.jp/
 イベントでは、白石さんが世界一周して食べた21種の珍しくて美味しい肉についてスライドを眺めながらたっぷり話が聞ける。

デイリー新潮編集部

2017年4月4日掲載

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