昭和シェルとの合併に突如反対 出光創業家の不満とは

企業・業界週刊新潮 2016年7月14日号掲載

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 富める時も、貧しき時もと誓いながら、毎年20万組以上のカップルが離婚している。その原因の定番といえば、価値観の不一致。どうやらそれは、「企業の結婚」でも変わらないようだ。石油元売り会社の出光興産と昭和シェル石油の間で進んでいた合併話に突如、出光側の創業家が異を唱えた。その背景には、出光家の譲れない一線が存在していた。

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市場規模が縮小する業界のなかで、いつまでも「独身貴族」を貫くわけにもいかない――

 6月28日、出光の株主総会。開始から1時間10分後、創業一家である出光家の代理人弁護士はこう力説した。

「出光と昭シェルの合併に反対する」

「異質な企業間の合併の苦労は簡単な話ではない」

 唐突な意見表明に出光の経営陣は面食らったという。

 経済界では「当然のこと」と受け止められていた、来年4月に予定されている国内2位の出光と5位の昭シェルの経営統合。ここに来て、出光家から「待った」がかかったわけだが、

「2度の石油ショックを経て、石油依存度を減らしていこうという国際的傾向のなかで、日本の石油消費も1999年をピークに下がっています。石油会社が生き残るにあたり、経営の多角化と合従連衡は避けられない状況です。実際、84年に18社あった石油元売り会社は今、5グループに集約されています」

 と、経済ジャーナリストの町田徹氏が解説する。

「創業家もそのこと自体は理解している。しかし、当初は出光がTOB(株式公開買い付け)によって昭シェルを吸収合併するはずだったのに、昭シェルの反発に遭い、対等合併へと方針転換が行われた。これにより、創業家が相対的に自分たちの持ち株比率が下がることに加え、出光の創業理念が消え去ってしまうことに危機感を覚えたのではないかと見られています」

■戸惑う出光家の一員

 確かに、出光と昭シェルの企業体質は対照的だ。

 出光は外国資本を受け入れない「民族系」であり、従業員の首きりは決して行わず、組合もなく、定年さえ設(もう)けていない家族主義の代表的企業である。一方の昭シェルは「外資系」と言われ、ドライな社風で知られる。両者はいわば「水と石油」ほど経営に対する価値観が異なっているわけだ。

 経済ジャーナリストの松崎隆司氏が説明する。

「企業の合併は結婚のようなものです。その結婚に際し、出光の経営陣は創業家の異性の『好み』を聞いてあげなかった。これに不満を募らせた出光家は、来年4月に迫った結婚前の最後の株主総会という場で、反乱を起こしたのでしょう。大塚家具が高級家具から中価格帯の家具の販売に切り替えたため、今年6月の売上げが前年同月比で62%となったケースは、創業理念を蔑(ないがし)ろにした悪い結果の典型例です。今回の反乱も、創業家の我が儘とは言い切れないと思います」

 結婚の前提として価値観の一致にこだわった出光家。とはいえ、市場規模が縮小する業界のなかで、いつまでも「独身貴族」を貫くわけにもいかない。そんな出光の苦悩を象徴するかのように、3代前の社長の出光昭氏はこう戸惑うのだった。

「うちの社風がずっと貫ければいいんですが、一方で業界は段々、再編が進んでいますよね……」

 経営陣は今後、出光家の説得を続けるというが、3分の1超の株を保有する創業家側の面子(めんつ)を潰すようでは、「火に石油」を注ぐことになりかねないのである。

「ワイド特集 富める時も貧しき時も」より