妻の浮気を異常に疑う男にとんでもない展開が待ち受けていた 家裁調査官がつきとめた真実

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 本来、家庭は安らぎの場であるべきだが、実際には家族のせいで、気持ちが休まらない人が増えているという。それどころか、家族の人間関係がこじれたせいで、妻や夫、子どもの人格が変わってしまったと悩んでいる人も珍しくないのだ。

 急な変化には注意が必要と語るのは、長く家庭裁判所調査官を務めた村尾泰弘・立正大学教授だ。

 家裁調査官とは、家裁に持ち込まれる事件の調査・解決にあたるエキスパート。家庭裁判所は「家族問題のるつぼ」だけに、扱う事件は実に多種多様だ。

 村尾氏が扱った中で、夫が急激に嫉妬深くなった事例を見てみよう。病的な嫉妬心をむきだしにする夫と、ただただ困惑する妻、この2人の間に何があったのか――。(以下、村尾氏の新刊『家裁調査官は見た――家族のしがらみ』より引用、名前はすべて仮名)

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夫が急激に嫉妬深くなった理由とは…

 40代のマサヨシは、30代の妻カオルが自分の部下(20代)に愛情を寄せているのではないかと疑い始めた。

 マサヨシは課長に昇進してから、しばしば部下を自宅に招くようになったのだが、やがてカオルと部下の関係を疑うようになった。「部下を見る妻の目付き」「媚びを売るようなしぐさ」が気掛かりになってきたというのである。

 ここで興味深いのは、それほど嫌な思いをするようになっているマサヨシが、部下らを自宅に呼ぶのをやめなかったことだ。彼にいわせれば「妻の不貞を確認したかった」というのだが、いかにも不自然だった。

 やがてマサヨシはカオルを「不貞をしているのではないか」と責めるようになった。しかし、妻は身に覚えがないと反論し、双方、疲れ果ててカウンセリングを受けることになった。

 夫の気持ちがほぐれてくるにつれて意外な局面が見え始めた。

 部下に愛情を感じるようになっていたのは、実はマサヨシの方だったのだ。

 部下に同性愛感情を抱くようになり、同時にその感情に対して強い罪悪感も覚えるようになった。その結果、マサヨシは「妻が部下を愛している」として妻を責めるようになったのだ。こころの中で、「部下を愛してはいけない」という罪悪感から「部下を愛しているのは自分ではない」という弁解を妻への嫉妬にすりかえてしまったわけだ

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 妄想の正体は、潜在的に持つ同性愛感情だったという。まさか、と思われる方もいるかもしれない。

 しかし実際に、自分の気持ちを抑圧した結果、それが別な感情となって周囲に向くことがある。この心理的な現象を、村尾氏は感情転移と言う。

「感情転移とは本来、心理的な治療の場面で、クライエント(来談者)が身近な人に感じていた感情をカウンセラーに移し換えてしまうことを指します。よくある例は、たまたま担当になったカウンセラーを『最大の理解者』『恋人』と思い込むことでしょう。

 しかし、数々の家族の問題を見聞きしてきた経験から、日常の人間関係にもこの感情転移が深く関わっており、さまざまな人間ドラマを生み出していると考えています」

 感情転移は誰にでも起こる。その結果、このケースのように、本来は問題のなかった人間関係が深く傷つくことになりかねない。

 感情転移が関わった人間関係になると、当事者だけでの解決は難しい。おかしいと思ったら、カウンセラーなどの第三者を介して、問題の真相を知ることもひとつの手だという。

デイリー新潮編集部

2016年7月15日掲載

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