「川島なお美」をがん放置思想の布教に利用した罪深き「近藤誠」

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■結局、川島は発見から5カ月後の昨年1月に手術を受け、その後、再発。還らぬ人に――

 結局、川島は発見から5カ月後の昨年1月に手術を受け、その後、再発。今年9月、還らぬ人となった。

 この記事の中で専門医たちを驚かせたのは、次の件(くだり)だ。川島が、ラジオ波焼灼術の効果有無を尋ねたことを受け、〈手術に比較して体への侵襲度がはるかに低い「ラジオ波焼灼術」を提案しました〉。

 しかし、この話に肝臓病専門医は眉を顰める。

「ラジオ波は肝細胞がんには有効です。しかし肝内胆管がんはリンパ節転移を起こしやすく、ラジオ波では根治を望めないので、そもそも選択肢に上りません」

 近藤医師は生半可な知識でアドバイスを行っているのか。ご本人に質すと、

「肝内胆管がんにもラジオ波焼灼術はできますよ。できないと言う医師は勉強不足です。肝内胆管がんのこの施術に関する論文が7本出ている。2012年の論文では、患者17人中、2人が術後90カ月以上生存しており、ほぼ治っている」

 この主張に対し、肝胆膵がんの専門医で、かつて「週刊文春」誌上で近藤医師と対談したこともある大場大・東京オンコロジークリニック院長はこう喝破する。

「肝内胆管がんは、傍らに門脈や動脈などの血管も近接するため、大きなサイズで発見されると他臓器へ転移もしやすい。根治を目指すためにはリンパや門脈の流れを意識した、専門性の高い手術が必要となります。患部だけをラジオ波で焼いても根本的解決にはならず、手術で治せる患者に行うのはナンセンス。近藤氏の持ち出した論文は、根治が目指せる患者が対象ではなく、再発ケースや転移があって手術の候補にならない患者に対するデータなのです。そこを混同させてはいけません」

 これに近藤医師も反論。

「確かにデータは手術不能の患者に対するもの。しかし手術不能の患者に施術してこの成績なら、手術可能な患者に施術すれば、もっといい成績が期待できます」

 しかし大場医師は言う。

「2人のケースを強調されていますが、治癒率でいうと約12%ですよね。また、17人中10人は、手術を受けた後の肝臓のみに再発したケースが多く含まれていて母集団にバイアスがあります。そのようなややこしいデータをあえて探し出してこなくても、川島さんのケースも相当する肝内胆管がんを対象とした外科手術の有効性を示す客観的データを見れば、彼の問題は明らか。川島さんは『文藝春秋』の記事によると、発見当初はステージⅡ程度までだったと考えられる。東大病院などが中心となったオールジャパンの手術治療成績が最近、まとめて報告されました。結果、リンパ節転移がない場合、ステージI(13例)の5年生存率は100%、Ⅱ(114例)で約70%、Ⅲ(115例)で約50%です」

 また米国のジョンズ・ホプキンス大学の外科医の報告によれば、514例の肝内胆管がんを治療した成績を踏まえて提案された予後予測ツールがあるという。

「それに川島さんのケースを知り得る範囲であてはめれば、2013年9月時点で手術を受けていれば、少なくとも3年生存率は80%以上、5年生存率は70%以上という予測結果になる。転移のない2センチ程度の早期発見は極めて稀でラッキーだったのに、近藤氏を訪ねたばかりに間違った情報に振り回され、不幸な転帰を招いた可能性は高い。正しく漏れのない説明責任を果たさなかった彼の罪は極めて重いと思います」(同)

「ワイド特集 ふとどき者ほどよく眠る」より

週刊新潮 2015年11月26日雪待月増大号掲載

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