1日で1兆7500億円を売り上げる巨大企業アリババとは 中国版「アマゾン+イーベイ+グーグル」なのか

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 11月11日は数字の「1」が4本並んでいることから「磁気の日」「めんの日」「きりたんぽの日」「ポッキーの日」など日本では数多くの記念日が制定されているが、中国でこの日は古くから「光棍節」と呼ばれている。枝葉のない木をあらわす「光棍」を独身者に例え、「独身の日」としてクリスマスやバレンタインデーをしのぐ商戦の日でもある。

 中国の電子商取引最大手、阿里巴巴集団(アリババグループ)は今年の「独身の日」のセールで取引量が143億ドル(約1兆7500億円)に達したことを明らかにした。2014年の同セールで記録した93億ドルをさらに54%上回った。

 日本ではあまりなじみのないアリババとはいかなる企業なのか? 143億ドルとは、2014年米国のブラックフライデーのネット総売上高24億ドを優に超え、同日の実店舗の売上高123億ドルをも超える数字だ。中国経済失速といわれるなかでの記録更新に、中国のオンライン取引がいまだ発展途上であり、アリババがいかに巨大な市場を握っているかをみせつけた結果となった。

 昨年のIPOで史上最大の2兆7000億円を調達した際も、欧米のアナリストたちはアリババを理解しようとして、アリババを「中国のアマゾン」「中国のイーベイ」「中国のペイパル」「中国のグーグル」「それらすべてだ」と喩えた。

《そういう比較は規模や収益を知るうえでは助けになるかもしれないが、結局、どれも真の理解につながらない。なぜなら、アリババのビジネスモデルは(中略)言葉のほんとうの意味で革新的なものだからだ。》

 そう述べるのは、ポーター・エリスマン氏だ。彼はアリババ創業者ジャック・マーがアリババを立ちあげた直後の2000年から2008年までアリババに勤め、副社長として国際マーケティングを指揮した人物だ。前出の言葉は彼が上梓した『アリババ 中国eコマース覇者の世界戦略』(新潮社刊)のなかからの一節だ。(以下<<>>内は同書からの引用)

■王者アマゾンがアリババから学んだこと

 ポーター氏は同書のなかで印象的なエピソードとして、2006年のジャック・マーのサンフランシスコでの講演の光景をあげている。満員の聴衆を巧みな話術で沸かせていたジャックの言葉を、会場の後方でしゃがみ込み書きとめている人物がいた。なんとそれはアマゾンの創業者であり最高経営責任者のジェフ・ベゾスだった。彼はジャック・マーから何を学ぼうとしていたのだろう。
 後日アマゾンが中国での事業拡大を宣言した際、ジェフが答えたインタビューにその答えはあった。彼は中国に進出したアメリカ企業が苦戦する原因をこう説明した。

《「中国に派遣された経営陣はアメリカの上司を喜ばせることばかりにかまけ、中国の顧客を喜ばせようとしていません。そこが問題です。われわれはそういう過ちは犯しません」。まちがいない。ジェフはやはりジャックから学んでいたのだ。》

 ジェフのその言葉はジャック・マーが過日の講演で語った指摘とまったく同じだった。欧米企業に打ち勝ってきたアリババの知恵を、王者アマゾンが学ぶ日がやってきたのだった。

■市場の95%を独占していた巨人イーベイとの戦い

 2003年B2B向けの電子商取引で躍進を続けていたアリババが、既に中国に進出していたオークションサイトの巨人イーベイとの直接的な戦いに打って出た。出品に手数料を徴収していたイーベイに対し、アリババの個人向けサイト「淘宝(タオバオ)」は手数料無料で挑むと宣戦布告した。それに対しイーベイは中国の消費者市場で95%のシェアを獲得しており、その地位は揺らぐことはない、手数料の徴収は続けると反応した。

《しかしその95%というシェアは、実際に電子商取引を利用したことがある中国のインターネットユーザー1000万人を母数にしていた。中国の人口の99%はまだ一度もオンラインで買い物をしたことがなかった。そこでわたしたちは、まずはイーベイの売り手を奪おうとするのでなく、それ以外の全中国人に狙いを定めた。》

 中国の顧客はイーベイのような洗練されたオークションシステムに慣れていなかった。さらにイーベイのサイトはアメリカ流のシンプルでクールなサイトだった。中国の顧客に狙いを絞ったタオバオはかわいいアイコンやにぎやかなアニメーションに彩られた、いわば“泥臭い”ものであったが、その“人間味”に中国の顧客は飛びついた。さらにオークションではなく、単一価格での取引や中国人が大好きなチャット機能を取り入れ、サイト外での決済も許容する自由度をもっていた。

 2004年はじめのマーケットシェアはイーベイ90%、アリババ9%だったものが、年末には53%対41%にまで迫った。2005年後半には34%対57%と逆転を果たし、ついに2006年末にはイーベイを中国撤退にまで追い込んだ。
 同書の中でポーターは、ジャック・マーがイーベイとアリババをこう喩えたと述べている。

《「イーベイが大海の鮫だとするなら、わたしは揚子江の鰐です。海で戦ったら、負けるでしょう。ですが、川で戦えば、勝てます」。》

「郷に入っては郷に従え」この当たり前の警句を受け入れることが、グローバル企業イーベイには難しかったのである。

■ヤフージャパンと重なるその姿

 アリババの姿は日本のウェブサービス「Yahoo!Japan」と重なる。アリババより前に世界の主要市場で唯一イーベイを打ち負かしたのがヤフージャパンだ。米ヤフーは事業の運営に携わらず、日本の企業ソフトバンクに運営を任せていた。それにより日本市場に合ったコンテンツの開発が可能になり、ヤフージャパンは日本市場で不動のマーケットリーダーになることができた。
 後にアリババはヤフーチャイナを買収し、検索事業にも参入を果たす。さらには大手ブランドが入る「天猫(ティーモル)」や、決済・物流やメディア事業にまで進出する。その拡大の様子からはソフトバンクで同様に事業を拡大し、アリババ創業直後に20億円を出資した孫正義氏の薫陶を感じ取ることも出来る。

 さらに同書では、共産主義体制をしく中国で、この巨大企業がどのように国と付き合っているのか、欧米人である著者が詳細に分析している。また国や文化の違う者同士がどうしたら同じ目標に向かい、手を取り合って働くことが出来るのかなど、国際ビジネスの難しさとコツも解説している。世界的なビジネスを展開する実務的な方法を学びたい方は当然読んでおくべきだ。しかし同書はジャック・マーがポーター氏ら仲間とともに困難を乗り越え、巨人を打ち負かす英雄物語ともいえる。夢を実現するにはどうしたよいのか悩む若者にこそ必要な一冊だ。

デイリー新潮編集部

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