【三井不動産よ お前もか!】ヒューザー、住友不動産……横浜「杭打ち偽装」で再点検する「欠陥マンション」悲劇の後日談

社会週刊新潮 2015年10月29日号掲載

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 マンションの裏側には「三井」といえども偽装を見逃してしまう闇があるのだろうか。「パークシティLaLa横浜」を信用して買った住人たちも、慄然としているに違いない。そこで思い出すのが、かつて「砂上の楼閣マンション」を買ってしまった人たちの「その後」。

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杭打ち偽装が発覚した『パークシティLaLa横浜』

 総務省が行っている「全国消費実態調査」によると、日本人の世帯あたり平均資産は、約3588万円(平成21年)。結構蓄えがあるように見えるが、実際には、このうち約7割が、住むための不動産で占められている。

〈家は人生最大の買い物〉

 そんな言葉もあるように、大概の人は、貯金をはたいて頭金を作り、定年が近くなった頃にやっと住宅ローンから解放される。杭打ち偽装が発覚した『パークシティLaLa横浜』は、ローン苦があったとしてもここを終(つい)の棲家(すみか)にしたいと思えるようなマンションだった。

 同マンションを9年前に新築で買った(約5000万円)40代の主婦が言う。

「買った当時は、ちょうど耐震強度偽装事件(いわゆる「姉歯事件」)が社会問題になった後でしたから、マンションの販売担当者は“このマンションなら安全です。三井が偽装するはずあり得ませんから”と熱心に勧めてきたのです。決めたのはその一言も大きかった。でも、実際、住んでみるとショッピングセンターも近いし眺めも良くて、本当に引っ越してきて良かったと思っていたんです」

 都心に比べて部屋も広くて、値段も手ごろ。おまけに販売は三井。そんな“理想”のマンションに、あってはならない段差が見つかったのは昨年11月のこと。これがきっかけで調査が入り、偽装が発覚したわけだが、一部の住民はもっと前から異変を感じていた。

「びっくりしたのは4年前の東日本大震災のときです。このあたりは震度4ぐらいのはずなのにグラングランと揺れ、最上階(12階)に住んでいる知人などは“梁の部分が曲がってしまった”と言っていたほど。私の部屋の前にある門扉もギシギシ音がして閉まりが悪くなってしまいました。近所のマンションでは、そんなことが起きたとは聞いていないのにですよ」(南棟に住む50代の男性)

「1年半ぐらい前、ベランダに大きな亀裂が入っているのを見つけたんです。びっくりして管理組合を通じて問い合わせたら“東日本大震災の影響です”という返事だけ。でも、今となっては杭が支持層に届いていなかったことが原因としか考えられません」(傾いた西棟に住む50代の女性)

 不幸中の幸いというべきか、『パークシティLaLa横浜』は、販売元の三井不動産レジデンシャルが、全棟建て替えと、その期間の仮住まいや引っ越し費用の負担などを提示。住民の多くもこれを受け入れる方向で話し合いが進んでいる。

「建て替え費用は280億円以上と見られており、今から取り掛かっても3年はかかります。しかし、こんなことが出来るのは年間1000億円の純利益を稼ぐ三井不動産だからです。住民とのトラブルを長引かせ“三井”のブランドに傷がつくことを恐れたのでしょう」(中堅不動産会社の幹部)

 実際、中小のデベロッパーが作ったマンションに重大な欠陥が見つかると、こうはいかない。まだローンが残っているのに人が住めなくなったマンションでは、住民たちがどんな辛酸を味わったのだろうか。

「事件からもう10年になりますが、ここに『ヒューザー』のマンションがあったことはいまだに有名です。こないだも、タクシーの運転手さんに“ここ、耐震偽装のあったマンションですよね!”と聞かれて返答に詰まってしまいました」

■トイレの便器も売った

 そう話すのは、05年に発覚した耐震偽装事件の“姉歯物件”のひとつ『グランドステージ住吉』(東京都江東区)の元住人・花岡剛史氏(53)=仮名=だ。

 事件の張本人、姉歯秀次・元一級建築士が偽造した構造計算書は、主にデベロッパー『ヒューザー』のマンションで使われたため、同社のマンション『グランドステージ』に次々と強度不足が発覚。社会をパニックに陥れたことは記憶に新しい。

「偽装を知らされたのはマンションが出来たばかりのころで、直前に江東区から連絡が来て事態が分かったのです。その後はもう嵐のようでした。すぐに、退去勧告が出されたのですが、4000万~8000万円の物件を買ってローンを組んでいる人が多く、新しく買うなんて出来ない。ローンなしで買った人も、いきなり資産の大半を失った格好でした。区と話し合って、仮住まいの費用の一部を出してもらったものの、これからどうしたらいいのか皆目見当がつかなかったのです」(同)

 肝心のヒューザーはというと資金的な余裕があるはずもなく、あえなく破産。そこで出した結論は、更地になった跡地にもう一度マンションを建てることだった。まず、銀行と掛け合って住宅ローンの支払いを待ってもらう。さらに「建て替え組合」を作り、新たに融資を頼み込んだ。

「しかし、建て替え組合を作ったものの、当面の金にも困る有様でした。そこで、各部屋にあった玄関ドアやトイレの便器などを引っぺがしてきて中古業者に売ったのです。まだ建ったばかりのマンションの什器ですし、同じ品質のものを揃えると、そこそこの値段で引き取ってくれる業者がいたのです。これで、100万~200万円にはなったでしょうか」(同)

 構造計算・設計の依頼、工事発注など、すべて組合が自ら行った。その結果、07年から始まった建て替え工事は、09年4月に竣工する。

「グランドステージ住吉の設計図が使えたので、ほぼ同じ間取りにすることが出来ました。費用は、敷地面積に応じて負担してもらっていますが、かかったのは元のマンション価格の5割ぐらい。つまり、4000万円の部屋に住んでいた人なら2000万円。5000万円なら2500万円を新たに支払うことになった。融資枠が一杯の人でも、銀行が他の金融機関を斡旋し、借りられるようにしてくれたのです」(同)

 もちろん、67世帯すべてが新しいマンションに移ったわけではない。ローンと仮住まいの家賃に窮して“夜逃げ”した人もいる。また、新しいマンションが出来るとすぐに売り払った人も。皆、人生を遠回りしてしまった格好だが、それでも住民の3分の2は、今も建て替えたマンションに残っているという。

 10年前、退去勧告が出たのは年の瀬の12月。寒空を思い出すかのような表情で花岡氏は言うのだ。

「横浜の杭打ち偽装のニュースを知って、もちろん、かつての事件が頭をよぎりました。時代は違っても、やはり偽装は繰り返されるのだな、と。こういう事件は誰かが誤魔化そうとしたら出来てしまうのです。現状のままでは、また同じことが繰り返されてもおかしくない。変わってないなあと思いましたよ」

 花岡氏らが住む新マンションの名前は、もちろん『グランドステージ』ではない。

■スーパーでアルバイト

 同じ「姉歯物件」でも、『グランドステージ千歳烏山』(東京都世田谷区)は、事情が違った。ここは2棟からなっており、耐震強度が違ったことから、建て直しか改修するかで大揉めしたのだ。

 当時、住人だった自営業の桐山信明氏(55)=仮名=が言う。

「住民集会は毎週土曜日の晩に開かれたのですが、ヒューザーの社員が来てはひたすら謝るだけ。“ふざけるな!”という怒号が飛び交うばかりで、まともに話し合う雰囲気になるまでには半年ぐらいかかりました。マンションは31戸あったのですが、建て替え派と改修派に分かれてしまって、なかなか話し合いがつかない。そこで、まず改修したらどうなるのかとシミュレーションしたのです」

 すると、分かったのは改修すると各窓に大きなバッテン印の補強材がはめ込まれ、部屋の中にも太い鉄筋を通さなくてはいけないという事実だった。

「いくら改修のほうが安いからと言って、これでは資産価値ゼロになってしまう。全員がシミュレーション結果を見て納得し、建て替えることで一致したのです」(同)

 そのための費用は約6億円。新しいマンションは08年に竣工した。

「最初に買ったときは3300万円でしたが、さらに2500万円のローンを組んだので約5800万円の借金に膨れ上がりました。うちは共働きで月収は50万円。その中から毎月30万円ずつ返しています。残りから光熱費と食費をまかなうのは苦しいので、土日は、スーパーでアルバイト。月に4万~5万円位にはなる。ま、私は自営業(町工場経営)なので、定年はありませんから」(同)

 ローンを支払うために働いているような生活だが、まだマシなほうなのだと、桐山氏は語る。

「マンションの建て替えのために奔走した住民の中にはリストラに遭った人もいる。裁判や建設会社との話し合いで会社を休みがちになってしまったのが原因です。再就職もかなわず、せっかく再建できたマンションも差し押さえられて銀行にとられてしまった。他にも、奥さんが働きに出たことで男が出来て逃げられてしまった人もいます」

 とにかく節約節約の生活だという桐山氏、事件発覚以来、旅行にも行った覚えがない。

 ここまで、いわゆる「姉歯物件」のその後を紹介してきた。だが、中小のデベロッパーだけが危ないとは限らない。

 民間ではなく「国」が売り出した物件でとんでもない目に遭ったケースもある。UR(都市再生機構)が分譲した東京・八王子市のマンションだ。

「当初、修繕に時間がかかるというので2週間だけ賃貸マンションに仮住まいするつもりでした。ところが、結局元のマンションに戻れたのは、10年も経ってからだったのです」

 そう話すのは、URが分譲した『ベルコリーヌ南大沢』の元住人の国本裕美さん(60)=仮名=だ。

〈美しい丘〉という意味の、このマンションは、89~93年に分譲され、全部で46棟(919戸)という巨大なもの。入居するには約50倍の抽選を当てなくてはならず、広さ約100平方メートルの物件は5000万~7000万円。かなりハイグレードな物件だ。

 ところが、国本さんの悲劇は入居したその年から始まった。

■「国」が売る物件も

「新築なのに雨漏りがひどくて、押し入れの布団は台風が来るたびに水浸し。あるときなどは、壁板を外してみると滝のように水が内壁を流れているじゃありませんか。もうビックリですよ。また、床の間が日に日に黒く変色してゆくのでURに電話したら“奥さんの見間違いじゃないですか”と相手にしてくれない。怖いので業者を呼んで板を外してみたら、真っ黒な水たまりが出来ていたんです」

 これだけでも欠陥マンションなのは明らかだが、決定的だったのは築10年目の定期修繕だった。

「あまりにも雨漏りがひどいので、床板などをはがしてみたらコンクリートがジャンカ(専門用語で穴の意味)だらけ。それで、URに言ったら、修繕するから、用意した賃貸マンションに移って欲しいというのです」(同)

 先述のように、それから国本さんは10年間も自分の部屋に戻れなかった。理由は、修繕する場所が多すぎたのだ。ジャンカだらけのコンクリートにはジュースの缶やビニールも埋まっていたという。国本さんは、建て直しか、購入時の価格で買い戻しを求めるが、URはいずれも拒否。結局、10年後に半値で引き取ってもらうしかなかった。

 同様の欠陥は『ベルコリーヌ』全体で見つかり20棟が建て直しになるなど、URは600億円以上の税金を投じる羽目になっている。途中で業者への天下りも明るみに出て、民間デベロッパーよりひどい実態が明らかになった。

 そして、最後に今回の『パークシティLaLa横浜』とほぼ同じケースを紹介しておく。デベロッパーが旧財閥系なのも同様だ。本誌(「週刊新潮」)でも昨年報じた横浜市西区の『パークスクエア三ツ沢公園』だ。ここでも打ってあるはずの杭が支持層まで届いていなかった。

「このマンションは熊谷組が建て、住友不動産が販売したのですが、建てて間もない03年頃から棟と棟をつなぐ手すりが10センチ以上ずれていることが問題になっていたのです。『パークシティLaLa横浜』と同じように業者側は“東日本大震災でずれただけ”と説明していましたが、以前からずれていたのは明白。住民が再三要求して調べさせたところ、建物を支える数本の杭が支持層に達していなかったのです」(住民の一人)

 ここまでは、パークシティとそっくり。それが、今どうなっているのだろうか。

「マンションは5棟に分かれているのですが、特に『B南棟』が傾いているため、そこは住民全員が退去して建て直すことになりました。他の棟も希望すれば購入時の値段で(中心は4000万円台)住友不動産が買い取ってくれますが、B南棟以外は改修で済ませてしまうという。しかし、こんな問題が起きたら不動産担保価値なんてゼロですよ。実際、融資を断られている人もいますから。B南棟の住民には仮住まいの家賃を払ってもお釣りがくるような金額と、駐車場代金などが支払われる。あまりの待遇の差に、最近では住民間で確執が起きている始末なのです」(同)

 人生最大の買い物は、人生で一番危険なギャンブル。欠陥マンションに振り回された人たちは、そんな単純な真実を教えてくれるのである。