新幹線「焼身自殺老人」の遺族に降りかかる「巨額賠償金」の計算式

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 死に場所に新幹線を選んだ代償が、莫大なものになるのは間違いない。71歳の容疑者、林崎春生の身勝手極まりない「焼身自殺」の巻き添えで、52歳の女性が死亡し、多数の負傷者も出ている。さらに、新幹線の運休も相次ぐことになった。もし、林崎の遺族に賠償金が請求された場合、その計算式はというと……。

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 神奈川県小田原市を走行中に、焼身自殺を図られた『のぞみ225号』の損傷は甚大だった。

 県警詰めの記者によると、

「林崎は、先頭1号車の最前列座席付近でガソリンをかぶって火を点けた。なので、前から3列目まで凄まじい燃え方をし、座席はアルミの骨組みがむき出しで、床を覆う塩化ビニール製のシートや樹脂製の窓なども高熱によって溶けていた。車両以外にも、JR東海の被害としては43本の新幹線を運休せざるを得なくなり、約9万4000人の乗客に影響が及びました」

 また、人的被害としては、お伊勢参りに向かう途中だった整体師の桑原佳子さんが気道熱傷のため窒息死し、一酸化炭素中毒や気道熱傷で、28人が重軽傷を負った。

 言うまでもなく、林崎は死亡しているため、これらの賠償請求は林崎の遺族が対象になる。

 最近の例では、愛知県で2007年、認知症を患う91歳の男性が列車にはねられて亡くなると、JR東海はその妻と子どもらに、振り替え輸送の費用など720万円の支払いを求めて提訴している。

■相続放棄

 果たして、今度のケースでは、どれくらいの金額を求められるのか。

 鉄道評論家の川島令三氏が解説する。

「特急券は本来の到着予定時刻より、2時間以上遅れたら払い戻すという規約がある。焼身自殺によって、東海道新幹線は最大で4時間半の遅れが出ました。ですが、そのうちの2時間分については払い戻しの必要がないわけです。単純に、その比率に従えば、約9万4000人のうち、払い戻しに該当するのは約5万2000人という計算になる。名古屋や新大阪までの特急券は5000円前後ですから、JR東海はだいたい2億6000万円を乗客に支払わなければならなくなります」

 まず、JR東海は林崎の遺族にこの払い戻し分を請求できるという。

「加えて、車両の損害への賠償も求めることができる。燃え方からして1両まるごと交換しなくてはなりませんから、それだけで約2億5000万円が必要です」

 少なくとも、5億円超の賠償金になるのは確実なのだ。

 さらに、人的被害の償いもしなくてはならない。

 損害賠償に詳しい、甲本晃啓弁護士の話。

「巻き添えになった桑原さんは、本人にまったく過失がありませんし、1億円の賠償が認められてもおかしくはない。また、重傷者は治療費、慰謝料含めて300万円、他は1人あたり50万円前後で、ざっと28人で賠償額は1600万円くらいになるはずです。ただ、問題なのは、容疑者には姉と弟の遺族がいますが、もし相続放棄されたら、JR東海も被害者も損害賠償請求する相手がいなくなってしまうこと。泣き寝入りするしかなくなるのです」

 死してなお、「焼身自殺老人」は禍根を残したのだ。

「ワイド特集 天地の狭間のドタバタ劇」より

週刊新潮 2015年7月16日号 掲載

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