冤罪ヒロイン「村木厚子」厚労事務次官の不敬なる「パラオ事件」

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 銀幕の世界と違い、現実社会に完全無欠のヒーローやヒロインなど存在しない。「冤罪ヒロイン」として事務次官にまで上り詰めた厚生労働省の村木厚子氏(59)。だが、栄光の裏に“陰”ありで、彼女には不敬なる「パラオ事件」という負の側面が囁かれているのだった。

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 万人に表現の自由は保障されているが、元少年Aに身勝手に“歌”を絶唱する権利があるとは認め難い。確かに安保法制の審議に落ち度は散見されるが、とはいえ民主党にエールを送る気にはなれない。

 世の中是々非々、それはそれ、これはこれである。

 いくら冤罪ヒロインだからといって、どんな振る舞いも「良し」とされるものではあるまい――。

 厚労省の村木厚子次官は、女性のキャリア官僚としてというよりも、冤罪事件に巻き込まれた悲劇のヒロインとして広く知られている。2009年、郵便不正事件で逮捕されたものの冤罪であることが証明され、1年3カ月後に職場復帰。思わぬ形で知名度が上がった彼女に、女性の活躍推進を謳(うた)う安倍政権が目を付け、一昨年7月、全官庁で16年ぶりとなる女性次官に村木氏を起用した。

「当初は話題作りを狙っての1年限定次官の予定でしたが、厚労省はもちろん、他の省庁にも次官候補の女性が育っていなかったため、女性官僚の“象徴”として、彼女には次官に留まってもらった」(官邸スタッフ)

 結果、7月2日から次官3年目に入った村木氏だが、

「次官は2年が通例で、3年もやるとなれば大物次官の仲間入りだ。彼女がそんな器かね。我々にとっては、天皇陛下の大切な行事に泥を塗った輩(やから)でしかない」

 こう村木氏に眉を顰(ひそ)めるのは、宮内庁の関係者だ。

「4月8日から9日にかけて、天皇皇后両陛下は10年来の懸案だったパラオご訪問を果たされました。両陛下の強いご希望によって実現したものでしたが、そこで村木某(なにがし)は失礼を働いた。今でも腸(はらわた)が煮えくり返って仕方がない」

 宮内庁側にここまで言わせる村木氏の振る舞いとは、如何なるものだったのか。

 酷暑の南洋の島に、1泊2日の強行軍で足を運ばれた天皇皇后両陛下。並々ならぬお覚悟のほどが伝わってくるが、「悲願の慰霊」の旅のハイライトは、4月9日の「西太平洋戦没者の碑」への供花だった。

 当日、午前10時40分頃、両陛下は慰霊碑の近くにご到着。日本から持参した白い菊を持った宮内庁の随員が背後に控え、まさに両陛下が慰霊碑に向かって歩もうとされたその瞬間、そこに「立ちはだかった」者がいた。遺骨収集事業などを所管する厚労省のトップ、村木氏である。

「南洋独特のギラギラとした太陽が照りつけるなか、彼女は両陛下に向かって、実に3分15秒にもわたりダラダラと慰霊に関する話を続け、両陛下に“足止め”を食らわせたんです」(同)

 パラオご訪問に同行取材した記者は、

「気温は30度を超えていたと思います」

 別の同行者も、

「あまりの暑さに汗が滴(したた)り落ち、帰りの機内で水をがぶ飲みした」

 と証言する炎天の下、天皇陛下は律儀に白い長袖シャツを着込まれていた。3年前に心臓手術を受けられた81歳の陛下のご体調が気遣われたのはもちろんのこと、

「慰霊の場で、天皇陛下に対して長々と“講釈”を垂れること自体が不敬の謗(そし)りを免れない。厳粛な場面で求められるのは、静寂な環境のもとで両陛下がお見せになる鎮魂のお姿です。これによって、見ている私たちも身の引き締まる思いを共有する。言うまでもなく、主役は両陛下なんですからね」(前出関係者)

 しかも、村木氏のような「暴走」を防ぐために、

「事前に御進講、つまり担当者が両陛下にご説明に上がり、パラオや慰霊碑に関してレクチャーする場を設けていた。両陛下は、防衛省やパラオ戦線で生き残った元日本兵の方などから詳細な説明を受けている。彼女が現場で喋るべきことなど何もないはずです」(同)

「考えてみてください」として、この関係者が続ける。

「8月15日に日本武道館で開催される全国戦没者追悼式で、天皇陛下がこれから『おことば』を述べようとされた時に、それを役人が遮って、『陛下、この式典は毎年行われているもので、先の大戦による死者は百万の単位に上り、靖国神社にはいわゆるA級戦犯も合祀されていまして……』なんて、3分以上も説明を始めたら、追悼ムードも何もあったものじゃないでしょ?」

■「こんなことが?」

 先の同行記者が補足する。

「戦後60年の年に両陛下はサイパンを訪れ、バンザイクリフに足を運ばれました。そこで両陛下は静かに拝礼され、その後ろ姿に接して我々は胸を打たれたものです。この時、案内役を務めた外務省の職員は、『ここがバンザイクリフです』と一言説明しただけで、すっとその場を離れ、両陛下お二人で静かに黙?なさる場面を演出していました。慰霊の場での役人はこうあるべき。村木さんはこのサイパンご訪問のことすら勉強していなかったんだな、というのが率直な感想です」

 加えて、慰霊碑への供花後、両陛下が現地の方や遺族と懇談された場では、

「天皇陛下が彼らとお話をしている中に村木さんが割って入り、『そろそろ』と懇談を終わらせようとした。両陛下に随行していた宮内庁の河相周夫(ちかお)式部官長(当時)が、『村木さん、ここはまだいいんです』と窘(たしな)めていました」(同)

 自身は不要としか思えない説明を延々と行いながら、両陛下と地元の人々の貴重な触れ合いは早々に打ち切ろうとした村木氏……。

 皇室ジャーナリストの神田秀一氏が不快感を示す。

「天皇陛下は皇太子時代から先の大戦に関する勉強を始められ、皇后陛下もご成婚後、半世紀以上、学習なさっている。天皇陛下の知識は大学教授と同等か、それ以上のものだと思います。村木さんの説明がどれだけ無意味だったか分かろうというもの。彼女は決定的に配慮に欠けていたと断じざるを得ず、前代未聞です」

昭和天皇「よもの海」の謎』(新潮選書)の著者である平山周吉氏も同調する。

「天皇陛下がどれほど勉強なさっているか、分からないはずがないのですが、村木さんは想像力が働かなかったのでしょうか。そもそも、陛下に対する態度以前に、炎天下で80歳を超えた方に接する姿勢としても、著しく配慮が足りない。私には、彼女自身が目立とうとしたとしか思えませんでした」

 村木氏に見解を尋ねると、

「こんなことが記事になるんですか?」

 と述べつつ、

「事前に宮内庁などと打ち合わせをした上で、両陛下にご説明しただけです。実際、宮内庁の人から目配せがあって、ご説明を終わらせました」

 3分超の長さについては、

「えー、なんで長さが気になるんですか。何分が適当かは私には分かりません」

 あくまで、「宮内庁サイドの問題」とするのだが、

「村木さんの行動に、宮内庁の人は皆、怒っていましたけどね……」(前出の同行記者)

 不思議なことがあるものだ。いずれにせよ、結果的に彼女の振る舞いが、その場に相応(ふさわ)しいものに映らなかった事実は動かしようがあるまい。

「村木次官が続投するか否かは7月上旬にも決められるはずでしたが、国会が9月末まで延長となり、判断持ち越しです」(厚労官僚)

 女性の登用、大いに結構。ただし、次官の座にある者には「結果責任」を受け入れる資質が求められることは言うまでもない。

週刊新潮 2015年7月9日号 掲載

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