遺伝性「乳がん」「大腸がん」のリスクを計算する「DNA検査」のお値段

ライフ 週刊新潮 2015年6月11日号掲載

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 死因の3分の1ががんと言われる時代。親類縁者を見渡しても、この病の罹患者はそこかしこにいることであろう。そこで、多くの人はこんな不安に陥る。自分にもがんは遺伝するのか――。そんな時に頭に入れておきたいのが、遺伝性がんのリスクを計算する、「DNA検査」だ。

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「遺伝性がん」の存在を知らしめたのは女優のアンジェリーナ・ジョリーである。

 母を乳がんで亡くしたアンジーが2年前、自らの遺伝子検査をしたところ、変異が見つかり、将来、87%の確率で、乳がんになるリスクがあるとの診断を受けた。そこで、彼女は命には代えられないとばかり、豊かな胸をすべて切除したのだ。

「実はがんのほとんどは、遺伝によるものではありません」

 とは、前出の秋津壽男院長。

「がん全体の95%が生活習慣などによって導かれた、後天的なもの。残り5%が先天的なものと言われています。ただ、この遺伝性のがんとは、親から突然変異した状態の『がん抑制遺伝子』を受け継いでしまっているということ。抑制遺伝子が働かないので、その人はがん細胞の増殖を抑える力が弱いのです。例えて言えば、通常の人は、生まれた時にがんを抑え込む兵隊を100人引き連れているのに、この人たちは、10人しかいないようなもの」

 そして、こうした遺伝子を持つ人が発症しやすいのが、がんの中でも、乳がん、卵巣がん、大腸がんというのだ。

■“親に申し訳ない”

 日本でも、少なくない病院が、この遺伝性がんのリスク診断を行っている。

 100以上の医療施設と連携して検査を行っている『ファルコバイオシステムズ』社の担当者によれば、

「検査方法は、ごく一般的な採血を行うだけです。我々は集めた血からDNA情報を取り出し、解析を行う。もし『BRCA1』などの遺伝子に変異があれば、その人は今後、乳がんを発症するリスクが40~90%あると判明します。一般の女性の生涯乳がん発症リスクは10%弱なので、この遺伝子を受け継いだ女性は、持たない人より、最大で約10倍のリスクを背負うことになるのです」

 同じように、「MLH1」などの遺伝子に変異が認められれば、

「将来、大腸がんになるリスクが40~80%とわかります。一般の人の大腸がんの生涯発症リスクは、10%弱なので、これも4~8倍もの大腸がんのリスクを抱えていることになります」(同)

 もちろんこのDNA検査は保険適用外。病院によって異なるものの、20万円程度の費用が一般的だという。やや高めに映るが、発症リスクの高さを鑑みれば、親が乳がん、大腸がん患者であった人にとっては十分検討に値するのではないか。

「アンジェリーナさんの報道があって以来、うちの病院の乳がん遺伝子検査の数は倍近くに増えました」

 と言うのは、国立九州がんセンターで、遺伝相談外来を受け持つ織田信弥医師。「その中には、検査の結果を受け止め、乳房と卵巣を摘出した女性もいましたが、“親に申し訳ない”と言って、それ以上の説明を聞きたがらなくなった方もいました。日本人の場合、アメリカ人と異なり、先祖代々から受け継いだ遺伝情報を明らかにすることに心理的な抵抗を持つ方が多いようです」

 未知の領域へ進むがん検診。ついには患者をして、自らのルーツやアイデンティティーにまで向き合わせる時代に入ったということだ。

「特集 健康診断では見落とす『超早期がん』発見の特別検査ガイド」より