人はなぜ人の首を狩るのか/『首狩の宗教民族学』
戦国時代の合戦で行われた「首実検」では、検分に先立って首は洗い清められ首化粧を施された。大将首には首を獲った者が左注ぎで酒を二回飲ませる儀式を執り行い、首は敵方に送り届けられた。厳密にいえば、これは「首狩」ではなく「首取」にあたるが、首を丁重に扱うところが共通する。本書は、世界各地で行われてきた「首狩」という習俗を通時的共時的に概観する試みである。特に第四章「台湾原住民の首狩」は、日本統治時代のフィールドワークが豊富に残されているために充実した記述になっている。台湾では首狩を「出草(しゅっそう)」という特殊な用語で表し、「出草」に関する様々な儀式、神話、禁忌などが伝えられている。例えばタイヤル族の場合。首狩に成功した者は入墨が許され、この入墨した男子のみが他界(天国)に赴くことができると信じられてきた。また婚姻においては出草の経験者のほうが優位に立った。出草において味方に死者が出た時は、たとえ敵首を獲っていたとしても村には持ち帰らず放棄し、夜間に一人ずつ静かに村に入り衣服を全部脱いでから家に入った。興味深いのは、なぜ首狩を行うようになったかという起源にまつわる因縁譚で、当初は犬や猿の頭部だったのが人頭にエスカレートしたという起源神話を持つ部族が相当数存在する。また、獲ってきた敵の首の口に、肉を詰めたり酒を注いだりして、「汝らここに来たり我らの友となれり。将来永く相親しまん」などと歌いかけ、味方として扱う習俗も広く分布している。現代人には受け入れ難いかもしれないが、首狩が「個人と共同体の生活のあらゆる重要な出来事において必要な行為」として行われ、「包括的な効験」がある「正の結果を持つ行為」としてとらえられていた観念世界が世界各地に存在したのだ。「馘首」を「リストラ」と曖昧に言い換えてきた戦後日本だが、「首切り」という言葉が本来持つ響きをもう一度思い起こしてもよいのではないだろうか。
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