3000人北京詣ででも「習近平」国家主席に顔を潰された「二階俊博」自民党総務会長

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 敵を攻める前に友好的に接しておく謀略を、古来中国では「笑裏蔵刀」の兵法と言う。3000人も引き連れて北京詣でに出かけ、習近平主席から直々のメッセージをもらったと喜ぶ自民党の二階俊博総務会長が、面子を潰されてもなお怒らない理由とは――。

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 5月に入ると中国・北京市は摂氏30度を超える日が多くなる。23日の夕方も、人民大会堂の中は日中の暑さが続いているような熱気だった。だが、それは詰めかけた招待客の人いきれのせいでもある。

 この日、人民大会堂で開かれたパーティー『日中観光交流の夕べ』は、それほど日本人客で溢れていた。何しろ、自民党の二階俊博総務会長が企画した“3000人訪中”のメインイベントだったのだ。

 出席した旅行会社の社長が言う。

「2月25日に二階さんが正式表明したことでツアーへの参加希望者を募る声がかかりました。もちろん、二階さんが会長を務める全国旅行業協会(他2団体)が主催ということもあって、加盟社のうちもお付き合いしたというわけです」

 訪中団の団長は洋画家の絹谷幸二氏で、経団連名誉会長の御手洗冨士夫氏が顧問、そして多くの自治体の長らも参加するという大掛かりなもの。ツアーは3泊か4泊を選び、5万9800~9万8800円となっている。だが、実力者・二階氏の肝煎りだけに、高いか安いかはこの際関係ない。

 二階氏を知る政治解説者の篠原文也氏が言う。

「観光は平和産業だから、外交には非常に有効なんだというのが二階さんの持論です。それと、彼は規模の大きいことが好き。今回の3000人訪中もそうですが、中国も数字や規模に大きな意味を持たせる国柄。そんな両者の考えが今回、合致したということです」

 バスで人民大会堂の前に連れてこられた客は、パスポートと招待券のチェックを受け、金属探知機をくぐり、2階の大宴会場に通される。そこでは中央のステージを囲むように赤い鳥居風のセットが組まれ、テレサ・テンの曲や「北国の春」が流され歓迎ムード満点だ。

 6時30分、いよいよパーティー開始。すると問もなく、

「習近平国家主席です!」

 とアナウンスされ壇上に本人が姿を現した。

「習主席がやって来るかも知れないという噂はあったのですが、さすがに本人が出てきた時は“えーっ?”とか“オーッ!”と驚きの声が一斉にあがりました。習主席は普通ならこうした場に姿を現すことはないと聞いていましたから、やはり皆びっくりしたのです」(前出の旅行会社社長)

 習主席は、満場の拍手を浴びながら壇上に登ると、スピーチを始める。もちろん、例によって、

〈日本軍国主義の当時の侵略の犯罪行為を隠すことは許されないし、歴史の真相を歪曲することは許されない〉

〈日本軍国主義の侵略の歴史を歪曲し、美化しようとする言動を中国人民やアジアの被害国の国民は受け入れない〉

 としっかり批判するのも忘れていなかった。これに対して二階氏は、

「本訪中団を歓迎する温かいお言葉を頂きました」

「習近平閣下のご挨拶の意味を十分理解して、それを実現、実行するために、我々も努力していきましょう」

 と有難く“お叱り”を頂いたとしか思えない返事。習氏は二階氏から安倍総理の親書を受け取り、立ち話もしたが、30分ほどでそそくさと消えていった。

 北京特派員が言うのだ。

「二階氏にとってはこれで充分なのです。去年5月には自民党の高村正彦副総裁、今年3月にも谷垣禎一幹事長が訪中しましたが、いずれも習近平主席には会えていない。中国首脳とのパイプ役は自分しかいないことを改めて見せつけました」

 一見、日中の“雪解け”を思わせるパーティーではある。だが、終始見せていた笑顔とは裏腹に、習主席が海の上で非礼極まりない行為を働いていることを忘れてはならない。尖閣諸島に対する挑発だ。

■特別な日を狙う

 人民大会堂に3000人が集まった同じ日、沖縄県の尖閣諸島沖では中国海警局所属の公船2隻が海上保安庁の巡視船と激しいチェイスを繰り広げていた。この日、彼らは排他的経済水域(EEZ)を越えて尖閣諸島の接続水域(領海の隣接水域)にまで入り込んでいた。今年に入ってから、これほど長期間の挑発行為は5度目。また、5月14日に接続水域に入ってから領海侵犯を含めて10日連続(5月23日時点)という長さである。

 石垣島で尖閣問題を取材してきた地元紙「八重山日報」の仲新城誠編集長が言う。

「尖閣周辺に現れる中国公船の動きは中国政府上層部の意向を常に反映していると聞いています。なにしろ今年3月、ソウルで日中韓の外相会談が開かれた際にも、岸田文雄外相が中国公船のことに触れたら、翌日すぐに領海侵犯してきたほどでした」

 彼らの手口は、日本や沖縄にとって特別な日を狙って挑発してくることだ。たとえば、5月に入って領海侵犯したのは3日と15日だったが、ご存じのようにそれぞれ憲法記念日と沖縄の本土復帰記念日だった。

「昨年は、2月23日の石垣市長選の告示日と、10月30日の沖縄県知事選の告示日、そして12月23日の天皇誕生日に領海侵犯している。天皇誕生日の際には中国のネットに“プレゼントだ”という声も載っていました」(同)

 この手法からすると、中国公船の挑発は、まさに、3000人訪中に対して恩を仇で返す行為である。もし、中国の政治家が日本訪問中に同じようなことをされたら席を蹴っ飛ばして帰っているところだ。ところが、親中派で知られる二階氏は、自分の面子が潰されたことなど気にもしていないようである。

 二階氏と言えば2000年に「日中文化観光交流使節団」と称して5200人を引き連れ“朝貢使節”のように北京を訪問、江沢民主席(当時)を大喜びさせたのは有名なエピソードだ。また、江沢民氏を記念する石碑建立を計画し、猛反発を食らったことも。今年2月にも約1400人を連れて韓国を訪問し、慰安婦問題の解決を求める朴大統領に対して「積極的な努力」を約束させられてきたばかりだ。

 政治ジャーナリストの山村明義氏が言う。

「二階さんは中国・海南島で毎年開かれるボアオ・フォーラムに出席し、中国側に顔を売ってきた。そこでは“中国は一衣帯水の国”などと相手が喜ぶようなことしか言わない。それは、彼が運輸・建設族の議員として、中国などに進出したい企業の代理人となり、動いているからです。そのためには、周りから土下座外交などと言われても中国・韓国に頭を下げることを厭わない。その意味では希少価値がある政治家なんです」

■「日本叩き」は変わらず

 そんな二階氏だからなのか、安倍政権の中で独特の存在感を放っているのもまた事実だ。

「志帥会(二階派)をがっちり押さえている二階氏の力は無視できません。安倍総理も稲田朋美氏らの側近に対して、関係を損なわないようにと日頃から注意しています」(政治部記者)

 政治アナリストの伊藤惇夫氏によると、

「5月16日に安倍総理は高野山の開創1200年記念大法会に出席するという理由をつけて、わざわざ和歌山を訪れ地元に入っていた二階さんを訪ねています。そのうえ安倍さんは一泊して地元の企業も訪問している。今回の訪中でメッセージを託すためだったのかも知れませんが、多忙な総理が、ここまでして会う時間を作る相手はなかなかいません」

 振り返れば、自民党の田中派から新生党、新進党、保守新党と渡り歩いてきた二階氏は、本来なら“冷や飯”を食わされていてもおかしくはない。にもかかわらず、閣僚や党幹部の座にあるのは、

「政策や理念はあまり語らないけれど、人たらしで生存本能が非常に強い。かつての自民党の政治家らしいタイプ」(同)

 だからだ。

「党本部にある総務会長室前の控室には、常に10~15人の陳情客が詰めかけています。それほど、人がひっきりなしにやって来るのは受けた陳情を決して店(たな)晒しにすることがないから。こちらの希望を伝えると、二階さんはその場ですぐ官庁の担当者などに電話をかけてくれる。かつての田中角栄さんを見ているようです」(自民党関係者)

 ちなみに控室で陳情客の応対をしているのは元航空会社社員の三男で、政策秘書をやっている長男と、どちらが跡目を継ぐのか注目されているとか。

 だが、中国出身で拓殖大客員教授の石平氏が言うのだ。

「間違えてはならないのは、習近平主席がパーティーに顔を出したのはアメリカに対する牽制が第一の目的だったからです。ご存じのように、中国がフィリピン沖の環礁を埋め立てたことで習主席とケリー米国務長官が激しく対立し、バイデン副大統領も“米国は立ち上がる”と強硬な姿勢を見せています。たまたま、その直後のタイミングで訪中団がやってきたことから習主席は日本との関係修復を匂わせただけ。本当に関係を修復したいのなら、大勢の民間人がいる“日中友好”の場で歴史問題を言う必要はない。戦後70周年のタイミングで徹底的に日本を叩きたいという習主席の狙いは全く変わっていません」

 尖閣諸島の領有を脅かされる日本の政治家が、領土問題で利用されているとしたらこれほど滑稽なことはない。そして、面子を潰されても抗議しない二階氏が、中国側に誤ったメッセージを伝えているとしたら――。

週刊新潮 2015年6月4日号掲載

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