行楽シーズンに増殖する「鉄道マニア」の分類と行動研究

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 駅のホームでは今や、目当ての列車にカメラを構える鉄道マニアの姿が、すっかりおなじみの光景となっている。が、「撮り鉄」と称される彼らの一部には、目に余る行為が散見される。GW、旅先であなたが出くわすかもしれない連中の“行動様式”とは――。

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 最近の鉄道マニアは、自身の“得意分野”ごとに「○○鉄」と細分化されている。先の「撮り鉄」のほか、鉄道旅行好きの「乗り鉄」、駅弁ファンの「駅弁鉄」といった具合だ。

 その中に「バリ鉄」なるジャンルがある。バリバリの鉄道マニアを指し、さらに狭義では「特に熱心な撮り鉄」を意味するのだという。

 この「バリ鉄」が先日、事件を起こしていた。警視庁は3月24日、都内の高校2年生の少年を窃盗容疑で逮捕し、中学生の少年を児童相談所に通告したと発表。容疑は昨年11月、国府津-二宮駅間を走行中のJR東海道線の車内で、車掌などが安全確認に使う「合図灯」や拡声器を盗んだというものだった。この高2少年が「バリ鉄」だとされ、取り調べにも、

〈家で点けて楽しんでいた〉

 そう供述していたのだが、こうした常軌を逸したマニアがひとたび集団化すると、手のつけられない事態となる。

 さる3月13日、上野と札幌を結ぶ「最後のブルートレイン」北斗星が“ラストラン”を迎え、大々的に報じられたことは記憶に新しい。

 だが実は、これはあくまで「定期運行」が終了したに過ぎない。現に4月2日からは臨時列車として運行されており、5月であれば上野、札幌駅からそれぞれ20本以上の北斗星が出発する。つまり、今でも乗ろうと思えば切符が買えるのだ。

 もっとも撮り鉄の“視点”に立てば、これは一大事であり、当日の上野駅13番ホームはカメラを持つ老若男女で埋め尽くされた。プロ仕様の一眼レフから、タブレット、スマートフォンと器材は様々だが、誰もが北斗星の“最後の勇姿”を収めようと駆けつけたのだ。

 出発時刻の約1時間前から、13番ホームではJR職員や民間警備員だけでなく、上野署の制服警官が拡声器で、

〈立ち止まらないで〉

〈写真を撮る人はロープの内側で〉

 などと呼びかけていた。総勢70人体制というから、ちょっとした要人警護並みの陣容だ。

 車両最後尾付近には、ロープで仕切られた一角に無数の三脚が並ぶ。ちなみにホームでの三脚使用は禁止されており、近くにいたJR職員に確認すると、

「その通りですが……」

 と困惑の態。これまで職員が撮り鉄を注意して逆ギレされたケースもあるため、混乱防止のためにはルール違反者でも隅に押し込んだ方が合理的というわけだ。

 そこに突然、隣の14番ホームに向かって、

「ありがとう!」と絶叫する集団が現れた。

 彼らは「葬式鉄」と呼ばれ、こうしたラストランに毎回押しかけてくるのだ。が、勇ましい掛け声に見送られて発車した高崎線列車は、ラストでも何でもない。北斗星に呼びかける“リハーサル”だったのか、いずれにせよ騒ぐこと自体が目的の連中としか思えない。

 午後6時45分頃、北斗星が入線すると興奮はピークに。身動きの取れない空間を、小学生らしき男児が撮影場所を求めて強引にかき分けて進む。“痛い!”“押すな!”と、そこかしこで悲鳴が飛び交う中、混雑など顧みず「自撮り棒」を突き出す者まで現れ、テレビ局の音声係が持つようなプロ仕様マイクを天井に向ける男性も。彼らは「音鉄」「録り鉄」などと呼ばれる。ホームで流れる自動音声や発車メロディを録音し、再生して楽しむのだ。

 ホームの警察官は、あくまでソフトな口調で“一歩だけ下がりましょう”と呼びかける。午後7時過ぎに駅長の合図で出発すると“さようなら!”“ありがとう!”と、例の葬式鉄が絶叫し、この奇々怪々なイベントは幕を閉じた。

■社会性の欠如した連中

 ある鉄道ファンが、一連の北斗星騒動を振り返る。

「2月下旬にはすでに、上野駅には多くの撮り鉄が押し寄せていました。JRの職員と警備員がホームに立ち、北斗星に近づく人に『乗客の方ですか?』と確認を求めていた。無断で車内に入って撮影するのを防ぐためですが、同時に備品が盗まれないよう警戒していたとみられます」

 それでも今回は、JRと警視庁の連携が奏功したケースといえよう。昨年3月14日に寝台特急「あけぼの」がラストランを迎えた際には、立入り禁止エリアに男性が乱入して大騒ぎになるなど、撮り鉄の傍若無人ぶりが遺憾なく発揮され、阿鼻叫喚の上野駅の模様がネット上で公開された。この時の警備体制は50人。それを踏まえてか、今回は70人に増員していたのだ。

 何しろ、撮り鉄は過去にいくつものトラブルを引き起こしてきた。2009年に東京メトロの車両基地で行われたイベントでは、撮影の妨げになるという理由で、撮り鉄の男が車両近くにいた幼児を抱え上げて家族から引き離す「事件」が起きている。男は幼児の母親へ“謝れや!”と理不尽な恫喝を加え、母親は泣きながら土下座し“子供を返して”と懇願するというおぞましい展開となった。

 別の鉄道ファンがその様子を撮影、動画サイトに投稿したことから一気に拡散し、ファンの間からも問題視する声が上がったのだった。

 JRに損害を与えたり、撮り鉄が死亡したりした事例もある。10年2月、お座敷列車を撮影しようとJR琵琶湖線の線路わきにマニアが侵入、電車は緊急停車した。同年6月には、JR大和路線で線路敷地内に三脚を立てた地方公務員の男が書類送検された。この時も、列車が運休している。

 13年1月、JR総武線新日本橋駅で、線路内に入って撮影していた男性が成田エクスプレスにはねられて死亡。同年2月には、長野県を走るしなの鉄道の線路沿いにある桜の木4本がチェーンソーのようなもので切断された。同社は撮り鉄の仕業と見なしたが、一部の撮り鉄は「証拠がない」と反発。同社のツイッターが炎上し、謝罪する騒動にまで発展した。

■“ファン同士の教育”が途絶

 埼玉県蓮田市、JR東北本線の東大宮-蓮田間に位置する通称「ヒガハス」は、撮り鉄の間ではよく知られた撮影ポイントである。

 のどかな田園地帯を走る線路に、大勢の撮り鉄がカメラの放列を向けている。いずれも一眼レフにスポーツ写真家のような巨大望遠レンズという組み合わせ。一見して異様な光景ではあるが、ひたすら目当ての列車を待ち続ける姿は、さながら求道者のようにも映る。

「首都圏から近いのに、田園を感じさせる風景が素晴らしいですね。近くに民家もないため、四季折々の自然をバックに鉄道写真が撮影できるのです」

 とは、50代の男性ファンである。また、中学生の息子と一緒に撮影していた60代の男性会社員からは、昨今のマナー悪化について、

「“ファン同士の教育”が不足しているかもしれません」

 との指摘があった。

「小学生の頃から鉄道写真を撮っていますが、当時も、駅で撮影しているとホームから線路に降りる大人がいたものです。私が真似をしたら、すぐ別の大人から厳しく注意されました。昔は鉄道ファンの数が少なかったので、教育が行いやすい環境だったのでは」

 マナー悪化は数年ほど前から顕著になったという。

「関西弁の人たちが固まって、カメラの前を横切った人に“何してんねん!”“ふざけんな、こら!”と罵声を浴びせていたのが強烈に印象に残っています。以前、息子と『出雲』のラストランを見に行きましたが、人だかりで写真が撮れない上、息子が“邪魔だ”と怒鳴られて、二度と行くまいと決めました。ファンの裾野が広がるにつれ、マナーの悪い人も比例して増えてしまう。なおさら、昔のように注意できるような環境ではなくなりましたね」

 ファンの間では一般的にマナーが良いとされている「ヒガハス」でも、他人の敷地に無断で入ったり、畑の真ん中にバイクで乗り付けたりする不届き者がいるという。

 別の60代男性は、撮り鉄によって電車が緊急停車させられる場面を目の当たりにしたという。

「私はもともと乗り鉄で、数年前から撮り鉄に鞍替えしたのですが、ある日、千葉県内の踏切でシャッターチャンスを待っていると、中学生ぐらいの少年が踏切の中に侵入したのです」

 踏切内は上りと下りの線路が離れ、中央に緩衝地帯のようなゾーンがあった。

「目当ての電車が接近してきて、何度も警笛を鳴らしたものの少年はその場を離れず、結局、踏切の手前で急停車しました。撮り鉄になって日が浅かったこともあり、私はつい“あれはOK?”と周囲に聞いて回ったくらいでした」

 それでも北斗星の騒動については、

「臨時列車が運行するのですからラストランではありません。ホームに張られたロープは、ファンにとって“恥”だと思わなければいけません。何より鉄道写真は、大地を走る姿を収めてこそでしょう」

 そう持論を展開するのだった。

■“市民権”を得たがゆえに

 あらためて上野駅でも、20代男性会社員のファン曰く、

「マナーが悪い撮り鉄に世代差はありません。それよりは『にわか撮り鉄』かどうかの方が大きいと思います。例えば昔なら一眼レフなんて一財産だったでしょうけれど、今は違いますからね」

 カメラが高額だった時代は撮り鉄になるための“敷居”が高かった。有象無象を排除してファンはマナーを保っていたのではないかという分析だ。しかし現在の量販店では、数万円でデジタル一眼レフが買える。

「お年玉で買う小学生もいるぐらいです。だから、路線が多くて通過する電車の種類も豊富な大宮駅などには、にわか撮り鉄が大挙して押し寄せる。で、やはり舞い上がって怒鳴り散らしてしまうのです。私は鉄道会社の友人が多いのですが、実は駅員さんは、鉄道マニアを心底嫌っています。撮り鉄は、その点をもっと自覚した方がいいでしょう」

 先に挙げた「あけぼの」ラストランでは、大宮駅の様子を撮影した動画も公開されている。「罵声大会」と称されるだけあって、なるほど上野駅より酷く、

〈下がれよ、おらあ!〉

〈邪魔だぞ、おい!〉

 などと怒号がひっきりなしに飛び交っている。

 この会社員の同僚男性も、

「みかんの木を伐採する場面を目撃しました」

 と、打ち明ける。

「東海道線の小田原駅の先にみかん畑があります。臨時列車のブルートレインが通ると絵になるのですが、私が撮影に行くと、数人のグループが“枝が邪魔”と、堂々と切っていた。しかも、高枝切りバサミを使って。わざわざ用意してきたわけです」

 先の「しなの鉄道事件」も、犯人の断定こそできないものの、こうした証言から撮り鉄が疑われる余地は大いにある。そもそも、一般の人間には桜の木を切る動機などないのだ。

 鉄道アナリストの川島令三氏は、

「マナー向上は40年ぐらい前からキャンペーンをやっていますが、もう駄目ですね」

 そう匙を投げる。

「最近は興奮の余り逆上する人もいるので、注意もできないのが実情です。以前の鉄道ブームは15年ぐらいのスパンで発展と衰退を繰り返していました。衰退期ならマナーの悪さも目立ちませんが、近年は鉄道ファンが市民権を得てしまった。ブームも長期化し、良識派のコントロールが難しくなっています。私は諦めの境地に達していますから、もうラストランなどには行かないに限ると思っています」

 ホーム上で一般乗客を隅へ追いやり、乗車という本来の目的を果たさずに狼籍に及ぶ連中を、跋扈させておく法はあるまい。が、JR東日本に聞くと、

「まだ排除というところまでは考えておりません。何より、マナーを守ってほしいものです」(東京支社広報課)

 と答えるのみ。かつての鉄道ファンには、

〈ラストランは家で酒を飲みながら、列車の姿に想いを馳せる〉

 という美風もあったという。が、今の撮り鉄はサッカーのフーリガンと大差ない。まさに、悪貨は良貨を駆逐する――。GWは、彼らにこの箴言(しんげん)を噛みしめて貰いたいものだが……。

週刊新潮 2015年4月23日号掲載