クルド人が最前線で戦う「対イスラム国」地上戦

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 目下、大ヒット中の映画『アメリカン・スナイパー』。本作でクリント・イーストウッド監督は、イラク戦争で160人を狙撃した伝説のスナイパー、クリス・カイルの生涯を描き出した。

 そして、折りしも現在イラクとシリアでは、過激派組織『イスラム国』掃討を目指した有志連合の地上作戦が進行中。米軍からも地上部隊が派遣されているが、

「彼らに与えられた任務は、カイル狙撃手が所属していた特殊部隊『ネイビー・シールズ』とは異なります」

 と、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は語る。

「オバマ大統領が最も恐れるのは、自国兵が殺されたり人質に取られたりすることです。つまり今回派遣された部隊には、危険を冒してまで敵を撃つことが期待されているわけではない」

 代わりに米兵たちは、効果的な空爆に向けた調査活動や現地の兵士たちの育成に取り組んでいるという。

「イラク軍兵士とクルド人部隊が最前線を任されています。これまでは犬猿の仲だった両者が、共通の敵として現れた『イスラム国』との戦いにおいて、一時的に手を結んだ格好ですね」(同)

 3月2日、イラク軍は北部の主要都市ティクリートを奪還すべく、約3万人の兵士による大規模な作戦を開始。4月から5月にかけてはクルド人部隊と協力し、イラク第2の都市モスルの奪還作戦を予定している。

 だが、むろん不安要素がないわけではない。戦況を取材した記者が明かすには、

「私が接触した50代のクルド兵は、彼よりも年老いた1941年製の銃を使っていました。しかも、彼が手にしていたのはわずか20の弾薬のみ。前線は深刻な武器不足に悩まされていると言っていいでしょう」

 対する『イスラム国』の側は、イラク軍から奪ったM16自動小銃をはじめとした大量の武器を保有すると見られ、サリンなど化学兵器の存在も噂されている。

「厄介なことに、死を怖がらない彼らは爆薬を積んだ車で敵の部隊に突っ込み、もろとも自爆を試みます。これには為す術がない。また、イラク以上の混乱状態にあるシリアには米軍も未だ手をつけられず、奪還作戦どころではありません」(同)

 失われた土地を求めて、厳しい戦いが続きそう――。

週刊新潮 2015年3月12日号掲載

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