壇蜜「困った質問へのマルチなベストアンサーがあるんです」――平野啓一郎×壇蜜対談(2)
平野 「Re:依田氏からの依頼」にも書きましたが、僕たちが恋愛対象として認められる場合、それはどこかで「誰でもよかった」という枠におさまっているからだと思うんです。あまりに特殊な人は排除されてしまう。でも、人を好きになる以上は運命的な根拠を求めてしまうものなんですが。今回の小説ではそれを逆手にとりたかった。
壇 発端の出来事の相手が彼でも彼でなくても、同じ恋愛になっていたかもしれない、というのが現実だと思います。だから「俺のどこが好き?」という質問には答えにくいですよね。
平野 そんなこと聞かれますか?
壇 しょっちゅう聞かれます。私、マルチベストアンサーを持っています。「あなたが私の世界を作ってくれたのよ」と言うと、だいたいみんな納得します。『愛のコリーダ』という曲が好きで、その歌詞を要約したものの引用です。おつきあいすると、楽しいか楽しくないかにかかわらずそこに新しい世界が増えるので、嘘ではないんです。
平野 ああ。僕は「分人」といって、人は相手ごとにいろんな自分を持っているという概念をずっと考えているので、今言われたことはすごく分かります。しかも『愛のコリーダ』も好きなのに、そんなエレガントな回答は思いつかなかったなあ(笑)。でも、具体的に言ってほしい人もいるんじゃないですか。
壇 重箱の隅をつつくように「あなただけのエスペシャリー」を生むのは好きです。「チャッカマンをつけるタイミングがいいよね」とか。
平野 あはは。小学生の時、隣の奴がいつも消しゴムを落としては僕に拾わせるんです。嫌がったら「お前消しゴム取るのうまいじゃん」って言われて頭にきましたね。しかも男子だったし。
壇 女子だったら恋が生まれたかも。
平野 う~ん? 「取り方が好き」って言われたら、生まれたかも(笑)。
壇 言い方で印象が違いますよね。