ゴジラ新作が世界的大ヒット 前作失敗の陰にあった“ソニー復活”のストーリー

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「わたしたちは、恐竜と怪獣の大きな違いを見落としていた。それが失敗の原因だった」──大失敗に終わった映画、「アメリカ版ゴジラ(“GODZILLA”)」の制作に携わったスタジオ幹部の述懐だ。

「え、アメリカ版ゴジラなら、いま全米で大ヒットしてるって話じゃなかったの?」と思う人がいるなら、その通り、あなたは正しい。“GODZILLA”は、アメリカで5月16日に公開されるや大勢の観客を集め、7月上旬の時点で興行収入2億ドル(約200億円)に迫る勢いだからだ。世界全体での興収は5億ドルに達しようとしている。

 ゴジラの「母国」日本での公開は、7月25日。夏休みに入った直後の週末とあって、大きな興収が期待されている。

 では、冒頭の「失敗」とは何のことか。実は、「アメリカ版ゴジラ」が作られたのは、今回が初めてではない。まったく同じタイトルの映画が、1998年に制作・公開された。「最低でも興収2億ドル」を目指してその「アメリカ版第一作」を世に問うたのは、日本のソニーの傘下に入ってまだ10年経っていなかったソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(SPE)。大手スタジオの中で最下位にあえいでいたSPEの経営再建の“勝負作”のひとつが、“GODZILLA”だったのだ。

 しかし、興収は伸びず1.3億ドル台にとどまり、映画そのものの評価も日米ともに芳しくなかった。スピード感には溢れているものの「イグアナの化け物」と評された“GODZILLA”の細身のスタイルに、感情移入できる観客は決して多くなかった。そう、大ヒット作「ジュラシック・パーク」に出てくる恐竜などとは、怪獣ゴジラはまったく異なる存在だったのだ。

“GODZILLA”の失敗でさらなる窮地におちいったSPEだが、その失敗から「映画ビジネスの可視化」の必要性を学ぶ。“どんぶり勘定”ともいうべきハリウッド式金銭管理を改め、年間制作プランと予算も数値化したのだ。そこから生まれたのが、「スパイダーマン」に代表されるシリーズ化の大成功。見る間にSPEは業界トップを争う映画会社になって、見事“復活”を遂げる。以上のプロセスで陣頭指揮を執ったのが、それ以前も以後も「日本人唯一のハリウッド経営者」と言っていいSPE副社長(のちに共同社長に)の野副正行(のぞえ・まさゆき)氏だ。

 野副氏は、SPEの再建を果たしたあと、東京の本社に呼び戻される。ソニー関係者によれば、ソニー本体の再生を託される可能性も高かったのだという。しかし、いかなる内部事情からか、野副氏の手腕が活かされることはなく、ソニーはSPEよりも長く深い苦境のトンネルに入っていく。最近では、テレビ事業の分社化、PC事業の売却などで合理化を図るも、いまだソニーの構造改革からは、将来のあるべき姿は見えてこない。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツも憧れた、日本が誇るイノベイティブな企業ソニー。その姿は、かつて日本を席捲し海外にまでその名が轟いた大怪獣ゴジラに重なる。ゴジラが復活を果たした今、「ソニーのお荷物」とまで酷評されたSPEの復活劇から、ソニーは学ぶべきことがあるのではないだろうか。

 野副氏は、ソニーを離れたのち、SPEを復活させたハリウッドでの貴重な経験を書物にまとめた。題して『ゴジラで負けてスパイダーマンで勝つ』(新潮社、2013年刊)。今回のアメリカ版ゴジラは、SPEではなくワーナー・ブラザース映画/レジェンダリー・ピクチャーズが制作を手がけたが、どんなゴジラが登場するのか楽しみだという。日本での公開2週間前の7月11日に、上述の野副氏の著書は電子書籍となって発売される。ゴジラやスパイダーマンが好きな人ばかりでなく、ハリウッドの映画ビジネスの内幕、そして企業再生の秘訣に興味がある人にも、ぜひ目を通していただきたい1冊だ。

デイリー新潮編集部