徹底した取材で権力の闇をも暴く/『殺人犯はそこにいる』

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「調査報道」に携わった者ならば、それがいかに地道で執拗な取材と、疑問を追い詰める冷静な論理が必要とされるかということを知っている。本書は、「FOCUS」の記者時代に「桶川ストーカー殺人事件」を取材、警察に先んじて犯人を割り出した経験を持つ著者が北関東で続発した幼女誘拐殺人事件に挑んだ調査報道を描くノンフィクションである。

 現在は日本テレビ報道局に籍を置く著者が、未解決事件を追うプロジェクトを始動させたのは二〇〇七年のこと。著者が注目したのは、一九七九年から九六年にかけて半径わずか一〇キロ圏内で五人の幼女が次々と殺害、誘拐された事件。

 多くの共通点を持つ犯行は同一犯によるものではないか。そう考える著者の前に大きな壁が立ちはだかる。事件の一つ、通称「足利事件」が「解決済み」だったからだ。それも決め手は「DNA型鑑定」。著者の苦闘はここから始まる。「一番小さな声を聞け」を取材の基本ルールと考える著者は、官製報道を疑い、自分の目と耳と足で徹底した取材を行う。この過程で「足利事件」の冤罪を証明し、「DNA型鑑定」の「神話」を解体する。更には真犯人「ルパン」を炙り出す。著者は、直接、「ルパン」に声を掛ける大胆さと同時に、自分の仮説を疑う慎重さも持ち合わせている。積み重ねる取材だけが判断に伴う不安を払拭してくれることも知っている。本書が暴き出すのは、単に連続幼女誘拐殺人事件の全貌だけではない。自らの権威を守るために陰湿な隠蔽を行う警察権力に体現される司法システムの闇や、当局の情報操作に踊らされるメディアの姿も浮かび上がる。

 今後、特定秘密保護法の暴風に晒されることになるこの国の調査報道を支えるのは、著者のような個々の記者による孤独で困難な営為でしかありえない。願わくは著者が「逃げきれるなどと思うなよ」と呼びかける「ルパン」の実名と素顔が、一日も早く明らかにされんことを。

[評者]山村杳樹(ライター)

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