宗教学者が選ぶ これだけは見ておきたい究極の秘仏

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 仏像ブームと言われて久しい。古くは『古寺巡礼』の和辻哲郎、最近ではみうらじゅん氏ら、伝道師とも呼べる熱心な仏像マニアの功績もあるだろう。しかし爆発的に仏像ファンの裾野を広げたのは、2009年東京国立博物館で開催された、『国宝 阿修羅展』だろう。
 阿修羅像の細身で若々しいスタイル、美しい顔立ち、その奥に秘められた思慮深い佇まいに、誰もが魅了された。東京展には94万人が足を運び、九州展の71万人、興福寺帰山後に行われた特別公開に来場した25万人を合わせると、その年、190万人もがこの仏像を目当てに足を延ばしたこととなる。

「仏像鑑賞とは、現代日本ならではの僥倖である」と語るのは宗教学者の島田裕巳氏だ。

 島田氏によると、一般の人々が仏像を楽しめるようになったのは、ほんの半世紀ほど前。さらに、古い時代の優れた仏像が多数残されている国は、世界でも日本だけなのだという。仏教国としては先輩にあたるインドや中国では、戦乱が繰り返されたり、「廃仏」の嵐が吹き荒れたりしたことで、仏像を含む多くの仏教美術が失われてしまったのだ。
 現代日本のように、優れた国宝級の仏像を次々と鑑賞できる(例えば阿修羅像の「地元」奈良に出かければ、一日に何体も見ることができる)のは、とてつもなく幸福なことであると実感すべきだろう。

■死ぬまでに見るべき十体の仏像とは

 では、数ある仏像の中でいったい何を見るべきだろう?
 島田氏は近著『仏像鑑賞入門』(新潮新書)のなかで、死ぬまでに見ておきたい究極の仏像十体を挙げている(興福寺、東大寺、法隆寺で普段公開されている仏像を除く)。
 十体の詳細は同書に譲るとするが、そのなかの一体「観心寺の如意輪観音像」をここで紹介したいと思う。

■一年に二日だけ見られる秘仏

 仏像には「秘仏」というものがある。普段は公開されておらず、特別な時期にのみ拝観ができる仏像のことだ。なかには長野善光寺の阿弥陀三尊像のように絶対に公開されないものや、33年・50年・60年に一度だけ開扉されるというものもあるが、「観心寺の如意輪観音像」は一年に一度、拝観することができるという。

 大阪・河内長野市にある観心寺では、一年のうち4月の17日と18日だけ本尊である国宝「如意輪観音像」がその姿を現す。女性的な顔つきと、しどけない姿勢、豊満な印象から、一般的に「官能的」と評されることが多いこの仏像だが、島田氏によれば「実物から受けた印象は、母性の部分だった。豊満さも、母親の慈悲深さと通じているように思えた」という。写真で見るのと実物で見るのとでは大違い、という場合もあるのだ。
 観心寺は大阪の中心部からやや離れており、この2日間を狙ってわざわざ出かけるしかない。だが島田氏は、

「それだけの価値がある密教仏であり、これに匹敵する如意輪観音像はほかにない」

と語り、これだけは見ておきたい仏像のひとつとして挙げている。

■3泊4日で至福の奈良へ

 また島田氏は同書のなかで、奈良の優れた仏像を網羅した3泊4日のモデルコースも提唱している。
「優れた仏像につぎつぎと接していくと、自分のなかに、仏像を鑑賞するための一つの基準ができる。その基準は、ひどく高いところに設定されたものである。とにかく一度、奈良で浴びるように仏像を見てみてはどうだろうか。それは、間違いなく至福の体験であり、仏像の見方を大きく変えるに違いない。改めて言おう。百聞は一見に如かず」
 現代日本に生まれ、この幸運を活かさないのは実にもったいない。この春、同書を携えて、仏像を巡る旅に出てみてはいかがだろうか。

デイリー新潮編集部