「幻!」のはずが? あのダイオウイカが、この冬豊漁!

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■天変地異の前触れ?

 昨年1月にNHKスペシャルで、「幻の巨大イカ」として長年謎に包まれていたダイオウイカが深海で活動するハイビジョン映像が放送されたことをきっかけに、空前の深海ブームが到来。夏にはそのダイオウイカをメインに、深海のすべてを紹介すると銘打った特別展「深海」が東京上野の国立科学博物館で開かれたが、来場者数は59万人にも達するフィーバーぶりだった。

 この深海ブームは今年に入ってもまだまだ続きそうだ。年明け以来、1カ月ほどの間に、新潟、富山、鳥取など日本海側の各県で、ダイオウイカが相次いで漁網にかかったり、海岸に打ち上げられたりしているのだ。その数はすでに4個体。通常、日本の海岸にダイオウイカが漂着するのは2年に1個体、あるいは3年に2個体ほどといわれていることを考えると、かなりのハイペースだ。一部には、地震など天変地異の前触れではないかと懸念する声まで上がっているが、その真相は?

 前述したNHKのTV番組で小型潜水艇に乗り込み、小笠原沖水深600メートルの深海でダイオウイカと遭遇し、人類史上初めて生息環境でこの未知の生物を観察した国立科学博物館の窪寺恒己博士は、著書『ダイオウイカ、奇跡の遭遇』(新潮社刊)の中で、この謎に挑んでいる。

■イカ博士が語る、ダイオウイカ漂着のメカニズム

 実は、2006年から07年の冬に、やはり日本海側の各県で6個体(体の一部だけ発見されたものを含めれば7個体)ものダイオウイカが発見されたことがあるのだ。なぜこの冬に限って、これほどたくさんのダイオウイカが漂着したのだろうか。

 窪寺博士はこの年の冬の海水温度をチェックし、沿岸部付近で海面の水温が15℃以下になると、ダイオウイカが漂着するという相関関係を発見。これに基づいて次のような仮説を立てた。

 大前提として、日本海のダイオウイカはそこで生まれて大きくなったものではなく、主に南の対馬海峡を通って外部から移入してきたものと考える。対馬海峡の最深部の深さは約135メートル。ダイオウイカはその水温が15℃に下がる2月から5月、おそらく3月と4月を中心に海峡を通じて日本海に入ってくる。そして、水温が5℃以上15℃以下の中深層(水深200メートルから400メートルの深海)に分布を広げる。冬になり12月から1月になると、表層域の急速な水温低下により、それまで中深層にいたダイオウイカが表層付近まで自由に移動できるようになり、海面付近で強い西からの季節風に煽られて、西日本を中心として日本海側の各地の海岸に流れ着く──。

 以上が、窪寺博士が考えたダイオウイカ漂着のメカニズムだ。

 2006年から07年にかけての冬場には、日本海側で例年よりも海水の温度が下がり、ダイオウイカが活動する深度が海面に近い狭い範囲となった。そのため、ダイオウイカが表面付近にまで浮かび上がってくることが多かったのだという。

 例年にも増して厳しい寒さが、ダイオウイカを呼び寄せるというわけだ。

デイリー新潮編集部

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