写真家のもつ「呪われた眼」/『メモワール―写真家・古屋誠一との二〇年―』

アート

 精神を病んだ妻がアパートから身を投げたとき、写真家である夫は遠くの地面に小さく横たわる妻の姿を写真に収めた。古屋誠一とクリスティーネ。他のだれとも似ていない夫婦のかたちに魅せられた小林は、長い時間をかけて古屋と対話を重ね、思索の結果を一冊にまとめた。
「何故、この写真を撮ったのだろうか」。小林の疑問は、読者が抱く疑問でもある。初めて言葉をかわした古屋は想像したような「おそろしく冷酷な目をした男」などではなかった。自殺した妻の写真集を繰り返し編み直す写真家、と形容すると狂気すら感じさせるが、本のなかにいるのは、自分より十八歳年下の写真家からの質問に率直に答え、母親譲りの繊細な神経を持つひとり息子が後を追うことをひそかに怖れる普通の父親である。

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