少女を「ペット」のように感じていた寺内樺風の勘違い 洗脳されているフリだった?

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 2年間に亘った少女監禁事件は、3月28日に寺内樺風(かぶ)(23)が身柄を拘束されたことで一応の終結を見せた。しかし、“なぜ少女はもっと早く逃げることができなかったのか”という「謎」は未解決のままである。

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千葉大学工学部で最先端のIT技術を学んでいた寺内樺風(Facebookより)

 埼玉県警関係者がこんな見解を披露する。

「オーストリアで、当時10歳だった女の子が監禁され、8年後に脱出に成功する事件があったんだが、これが発覚したのが06年で、少女の手記をもとに作られた映画が公開されたのが13年。この事件では、最初、地下室に閉じ込められていた少女が、犯人の男に従うことによって、ラジオを聴くことを許され、新聞を読むことを許可されといった具合に、徐々に『アメ』を与えられて飼いならされていったことが分かっている。今回の事件と極めて似ている」

 犯罪者の精神鑑定に携わってきた臨床心理士の長谷川博一氏が後を受ける。

「その事件が発覚した時、寺内容疑者は13歳の頃で、異常な執着を持った犯罪者は、この年齢の頃に執着対象、彼の場合で言うと『少女誘拐』に関心を持ち始めることが多い。また、映画の公開が誘拐の前年だった点も極めて興味深い。彼が、オーストリアの事件を参考にした可能性は充分に考えられます」

 捜査関係者によれば、

「少女に『俺は父親の面倒を見ている。俺がいなくなったら父親は大変なことになるし、生きていけない』と囁(ささや)き、恐怖感を植え付けた。最初は信じなかった彼女も、監禁下で何度も言われているうちに、誰も私を探してくれていないと思い込むようになってしまった」(捜査関係者)

 寺内がアパートを不在にする際には、少女が大声で助けを求めるのを防ぐため、“お前も、そいつ(助けを求めた相手)も、俺も死ぬ。そうなれば、父親の面倒を見る人がいなくなる”と脅していたという。

 そうした一面とは裏腹に、少女に女性誌を買い与え、『ユーチューブ』など特定のサイトのみのネット閲覧も許していた。「アメとムチ」を使い分け、少女を従順な「僕(しもべ)」に仕立て上げる心理作戦を仕掛けていたことは確かなようだ。

■自分に尻尾を振る愛玩動物のように……

「今回の事件は、洗脳における『3段階』と似た経緯を辿ったと考えられます」

 と、立正大学の西田公昭教授(心理学)が「謎」を解く。

「まず初期段階では恐怖を与え、情報を遮断し、身体的ダメージを加える。直接的な暴力がなかったとしても、監禁されるだけで体力は弱まります。そこで同じ情報、つまり『誰も助けになど来ない』というメッセージを送り続けると、被洗脳者は支配者の言うことをきくようになる。すると今度は、支配者は一転して甘い汁を用意する。この汁欲しさに、被洗脳者は支配者に対して依存的になっていく。これが中期段階です」

 そして後期段階に入ると、

「被洗脳者は支配者に対して従順に振る舞うことが当然と思い、馴染(なじ)んでしまう。従順になることで得たささやかな自由や報酬を奪われることを忌避するようになるのです。この時、寺内容疑者は、少女が自分になびいていると感じ、彼女のことを、あたかも自分に尻尾を振る愛玩動物のように感じていたはずです」(同)

■「洗脳されているフリ」

女子中学生が家族と警察に連絡したJR東中野駅の公衆電話

 父親の存在を持ち出して脅し、雑誌やネット閲覧という「報酬」を与えた上で、恋人然と振る舞ってみせる――。まさに、洗脳の3段階そのものである。しかし、

「最後に隙が生じた。所詮、『力』で支配していたに過ぎないのに、彼は少女をペットのように思い込み、彼女がネットを通じて、本当は両親が自分を探していることに気付き、逃げ出そうとするなんて思いもしなかったのでしょう」(同)

 精神科医の町沢静夫氏が続ける。

「脱出時、少女は身分証明用に生徒手帳を持ち出したことからも分かるように頭のいい子で、洗脳されているフリをしながら、確実に逃げ出せるタイミングを狙っていたのだと思います」

 自身が中学生だった頃から女の子を誘拐したいとの願望を胸に秘め、失踪マニュアル本を読み、少女に〈チャットで知り合った高校生のところにいる〉と書かせた嘘の手紙を父親宛てに送らせ、誘拐ではなく、自発的な家出を装うほどに周到な準備をしていた寺内。だが、いくら犯罪の「体裁」は整えたつもりでも、「いつか必ず家に帰りたい」という少女の「心」は掴み切れていなかったのだ。

■寺内の「限界」

「監禁アパート」の同じフロアの住民は、2月上旬の夜中に、寺内が外の廊下に出て携帯電話で話している姿を目撃している。先に登場した長谷川氏が、このシーンから寺内の「限界」を語る。

「例えばオウム真理教の信者は、家族の説得にも耳を貸そうとはしませんでした。マインドコントロールに『自信』があったのであれば、ネットの閲覧を制限する必要もなく、電話でのどんな会話を聞かれても問題ない。つまり、少女を計画的に誘拐し、念入りに支配したつもりでも、寺内容疑者がどこかに不安を抱えていた証と言えるでしょう」

 そんな寺内の公判は「少女の回復を待つため夏以降になる」(法曹関係者)予定で、量刑は「3年程度に留まる見込み」(同)だという。

 最後に、前出の西田教授が寺内の本質を喝破する。

「少女をペットにしようとした彼は、結局、人間という存在を舐(な)めていたんです」

「特集 少女から逃亡意欲を奪った『樺風容疑者』間取り2Kの心理作戦」より

週刊新潮 2016年4月14日号掲載

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