【東武日光線 4人死亡事故】「時刻表にない臨時列車」の存在と安全運行の“最後の砦”運転士による無線報告 関係者の新証言から浮かぶ東武鉄道会見との相違点

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 8月20日、東武日光線の新鹿沼駅(栃木県鹿沼市)で除草中の作業員ら4人が上り特急列車「スペーシアX2号」(浅草行)にはねられ死亡した事故から1カ月以上が経つ。9月30日には東武鉄道が事故の中間報告書を国土交通省関東運輸局へ提出したが、事故原因や具体的な再発防止策などについて報告がなされるのはまだ先の話だ。ただ、関係者の間から既報にはない、さらには東武鉄道の会見とは大きく異なる実態を指摘する声もあがっている。

列車見張員の不可解な行動

「新鹿沼駅で停車する寸前、運転士は線路内にいる作業員に気づいて非常停止措置をとったが間に合わなかった」――。事故当夜に開かれた会見で、東武鉄道は事故発生時の状況についてそう説明した。ここで問題とされたのが、線路上の作業員に列車の接近を知らせて待避させる役割の「列車見張員」は、いったい何をやっていたのか、ということだ。

 まず、この会見における東武側の説明をまとめると、列車接近時の作業員待避と列車通過までの確認業務は一般的な現場の場合、(1)駅から約300メートルの位置にいる「中継見張員」が列車を視認し、作業員から約80メートル離れた場所にいる「列車見張員」に黄色の旗を振って「列車の接近」を伝える(2)これを受けた列車見張員がマイクや笛を使って作業員の待避を促す(3)待避が完了したらそのことを中継見張員に伝達(4)中継見張員が列車に対し「待避完了」合図を出す(5)列車の運転士が警笛を鳴らしてその合図に応える、という流れで行われる。この一連の確認業務が滞らなければ、何の問題もなかったはずだ。

 ところが事故当時、「運転士は現場近くにいた列車見張員から『進入可能』との合図を受け取ったと証言している」が、「中継見張員は列車見張員との意思疎通ができない状態だった」という。地元紙「下野新聞」によれば、この中継見張員は作業が始まる前だと認識していて、まさか線路上に同僚たちがいるとは思っていなかったと証言している。

 事故後のマスコミ報道では、やたらと中継見張員の”意思疎通が取れていなかった”という発言ばかりがクローズアップされ、それこそが事故の原因だと匂わせていたが、現場を知る人々の間では、本質は違うこところにあるとの声が専らなのである。

 見張員同士の連携にいかなる不備があろうとも、現場の最も近くにいた列車見張員が近づいてくる列車に向けて異常発生時に「進入不可」を伝える「赤い旗」を振っていれば、最悪の事態は回避できたのではないか。なぜ、線路上に作業員がいるにも関わらず列車見張員は「進入可能」の合図を出してしまったのかという疑問は拭えない。

誰も列車が直進するとは思っていなかった?

 現場をよく知る東武鉄道関係者は「あくまで推測ですが」と前置きした上で、

「列車見張員と作業員は、当該の上り特急列車が事故が起きた『1番線』の向かい側にある『2番線(通称・中線)』へ入ると勘違いしていた可能性が高い」と語る。

 事故があったのは、新鹿沼駅で主に上りの特急列車などの発着に使われる「1番線」側にある今は使われていない旧ホーム付近だったが、事故現場のさらに約80メートル手前(東武日光駅方)で線路が分岐しており、その先にもうひとつ別のホームがある。これが時刻表には通常記載されない回送などの目的で走る「臨時列車」が、定期列車の退避に使う「2番線」だ。前出の関係者によると、ダイヤ上には予め事故発生時刻の直前に新鹿沼駅の2番線へ入る「臨時列車」が設定されていたという。指定日に運転されるため事故当日は運転されなかったが、仮にこの列車が走っていれば、10時43分に2番線へ到着し、49分に出発するはずだった。そして、事故が起こったのは10時45分――。

 この関係者は、時刻表に記載のない「臨時列車」の存在は、東武鉄道の運行に携わる関係者のみが所持するダイヤに予め記載されていたと明かす。もし、列車見張員が事故当日の運行ダイヤを臨時列車の運行指定日と取り違え、当該の特急列車がこの「2番線」の方へ入っていくのを前提として業務に当たっていたとしたら。作業員らもまた、当該列車が「臨時列車」だと信じて「1番線」側に待避していたとしたら。どうなるかを想像してみてほしい。

 作業員らは線路上で列車の通過を待つ間、小休止しながらたわいのない雑談を交わしていたかもしれない。列車見張員はそんな彼らの”待避完了”を視認し、当該列車に「進入可能」の合図を出した。が、列車は2番線の方へは曲がらず、そのまま作業員らがいる直進方向、つまり1番線へと進んだ。列車見張員たちはさぞ驚いたのではないか。

 過去に事故を起こしたのと同型の特急列車から乗客が撮影した動画を検証すると、1番線に到着する列車が2番線への分岐ポイントを通過してから作業員らのいる旧ホーム付近まで辿り着くのに要する時間はわずか2~3秒。1番線の線路際で”こちらに列車は来ない”と安心し切っていた作業員らが逃げるにはあまりにも短い時間だ。

 その後の報道でも、危うく難を逃れた作業員の一人が「慌てて線路上から、今は使われていない旧ホームへ飛び上がった」との証言が出ている。かくして、直進した列車が作業員ら4人をはねるという最悪の結果がもたらされてしまった。

会見と食い違う無線でのやり取り

 さらにもうひとつ、関係者の間でささやかれている重要な事項がある。そもそも事故を起こした当該の特急列車の運転士は、線路上の作業員に気づいていなかったのではないかという点である。それを裏付けるように、事故直後に作業員を轢いた運転士の無線での報告が、会見での東武鉄道の説明と決定的に食い違っているというのだ。別の東武鉄道関係者の話。

「スペーシアの運転士は30代の男性でした。事故発生直後に運行管理者と無線交信するなかで、彼は『列車接近了解合図を確認して管笛を鳴らしたあと、異音を感知して非常ブレーキをひいた』と口にしたといいます」

 この証言を信じるなら「運転士は線路上に残っていた作業員を目視して、非常ブレーキをひいたが間に合わなかった」という会見での東武側の説明との食い違いが生まれる。実際には運転士は待避していない作業員らにまったく気づかないまま1番線へ通常速度(時速約50キロメートル前後)で進入し、「異音」、つまり「列車が人にぶつかる音」がしたから慌てて非常ブレーキを引いたことになってしまうのだ。

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 新潮QUEで配信中の記事『【東武日光線 4人死亡事故】「時刻表にない臨時列車」「1度の警笛」という新証言で浮かぶ事故原因の「点と線」』では、東武鉄道関係者による「事故直後の運転士の無線での報告」についての証言を詳細に検討。なぜ警笛を1度しか鳴らさなかったのか、なぜ見通しの良い場所で作業員に気づけなかったのか――安全運行の“最後の砦”である運転士の事故当時の行動と現場状況から、多層的に連なる事故原因に迫っている。

デイリー新潮編集部

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