データ重視のMLBで「ノムさん」に再評価の兆し…元メジャー本塁打王も賛辞を惜しまない「智将の教え」 米・人気野球番組では「勝ちに不思議の勝ちあり…」が取り上げられ
カウントに応じたスイング
それは、中日スカウトチームが24年11月のプレミア12大会でウォードを視察したレポートだった。中日が前シーズン終盤に来季の契約を結んだ異例の獲得劇もそうだが、ウォード自身も「僕よりも僕の打席に詳しいんじゃないかって」と驚いたように語っていた。そのレポートを翻訳アプリに掛けて読んだところ、ウォードはプレミア12大会の米国代表メンバーで4番も務めているが、日本戦では3三振を喫した。しかし、中日のスカウティングレポートによれば、日本戦から2日後のベネズエラ戦の9回表に放ったソロ本塁打のことが書いてあった。
「初球の変化球にはバットをピクリとも動かさなかった。フルカウントからもファールでしっかり粘り、6球目をスタンドに運びましたね。2日の日本戦も観ていましたが、決してボール球を安易に振りに行くのではなく……」
こうした内容がウォードの口から語られた。つまり、本塁打という結果ではなく、日本戦の3三振も含めて、カウントに応じたスイングをしている点を評価したと伝えていたのだ。
メジャーリーグには打球速度や飛距離、方向、投手に投げるボールの回転数など、選手の力量を判断するデータ解析法がたくさんある。しかし、日本は結果だけではなく、そこに至るまでの過程にも着目していたと番組は驚いていた。番組が辿り着いた答えが「ノムラの教え」だった。
「カツヤ・ノムラという名将はたくさんの野球理論本を書き、『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』などの言葉を残しました。1球ごとに『配球には意味がある』とし、打者が見送ったこと、捕手があえてボール球を要求する意図が説明され、日本の野球ファンはテレビの前でも配球の駆け引きを楽しみ、語り合っています」
と、司会者は説明した。ウォードを解雇したドジャースは大量得点で勝ち、ビッグネームを集める編成が目立つ。暗にドジャースを批判したようにも聞こえたが、司会者がこう言い直した。
「ドラゴンズは最下位に沈んでいますが、本拠地球場には今年253万人以上を集めました。勝敗ではなく、野球の中身を楽しんでいるのでしょう。ノムラ氏の影響でしょうか」
コメンテーターのオルティーズ氏がレッドソックス時代を語り始めた。
「08年、レッドソックスはアスレチックスと東京ドームで試合をしたが、投手が足を上げるのと同時に球場中が静まり返るんだ。ダイスケ(松坂大輔氏=46)は準備のために労を惜しまなかった。ジュンイチ(田澤純一氏=40)も相手打者の癖の話になると止まらなくなった。数字は嘘をつかないが、全てを語ってくれるものではない。過程やその準備を大切にするのが日本の野球文化なんだろう」
準備の大切さ
野村克也氏が残した著書には、準備の大切さが多く綴られている。米国には野球の本もあるが、学校の図書館にあるような伝記本が多い。野球だけでなく、ビジネスにも応用できる野村氏のような元野球選手の本は「見たことがない」(米国人ライター)という。
「野球の指南書は米国では異色です。メジャーリーグのコーチはサイバーメトリクスの数値に基づき、弱点や欠点を伝えますが、技術的な指導はほとんどありません。ウォードは今季マイナーで対右投手の打率は2割7分3厘で、左投手との成績は1割7分8厘でした。四球を選べるバッターであり、三振が年々減っています。MLBの他球団が彼を獲得しなかったのは『左投手が苦手だから』です」(前出・米国人ライター)
ウォードのメジャーリーグでの打率は2割1分8厘。米国とは異なる観点で評価されたウォードが中日を救えば、「過程、準備が大切」とするノムラの教えと日本の野球文化が米国でさらに注目されるはずだ。



