「神様は仲良く引き分けにした」巨人と阪神が演じた“伝説の天王山”
勝負は下駄を履くまでわからない
今度こそ勝負あったかに思われた。
ところが、その裏にまたドラマが待っていた。
1死から打席に入った柳田は、カウント1-2から谷村智博の4球目を強振。見送ればボールになりそうなフォークに少し泳ぎながらも、打球は右翼ポールを直撃した。起死回生の同点ソロで10対10となった。
現在、八王子市でカラオケスナック「まむし36」を経営する柳田氏は、当時をこう振り返る。
「打席に入るとき、コーチの福田(昌久)さんに『絶対打って取り返せよ』って言われました。『ヒットでつなげよ』ならわかるけど、こっちは好き好んで捕り損ねたわけじゃない。エラー扱いで『取り返せ』はないんじゃないのと怒りながら打席に入りました。ホームランを打ったあとも、ムスーッとした顔でダイヤモンドを1周して、ベンチに戻ってもムカムカしていた。でも、今思うと、あの言葉が心に火をつけたのかも」
普段は“気力の一打”という言葉を信用していなかった柳田が、「あの一発だけは、まさしくそんな感じ」と認めた一撃だった。
9回、投手総動員となった巨人は、20歳のルーキー・小林繁を6番手でマウンドへ送った。この日がプロ4試合目。1点でも失えば、8回の柳田の同点弾が空砲になりかねない重要な場面だった。
それでも小林は「別にあがりもしなかった」と平然。わずか7球で打者3人を内野ゴロに打ち取った。
9回裏は阪神の谷村が3者凡退に抑え、球史に残る打撃戦は10対10の引き分けに終わった。
試合後、巨人・川上哲治監督は「いい試合だった。こんな試合は監督生活で初めて」と振り返った。あわや大敗という展開から執念で引き分けに持ち込み、満ち足りた表情を見せた。
阪神・金田正泰監督も「選手はよくやってくれた。こんないい試合だったから、神様は仲良く引き分けにしたんでしょうね」とコメント。天王山2連戦を1勝1分で乗り切り、手応えをつかんでいた。
この時点でも、阪神は勝率1厘差で首位を守っていた。
その後、阪神はマジック「1」まで進めながら、最後の2試合に連敗してまさかのV逸。一度は優勝をあきらめかけた巨人が、最後に笑った。
振り返れば、10月11日の引き分けは大きかった。7点を追う展開となり、長嶋まで負傷退場。それでも巨人は試合を捨てず、最後まで阪神に勝利を許さなかった。
10対10の死闘は、「勝負は下駄を履くまでわからない」を地で行く一戦だった。
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