広島・辰見鴻之介“代走での盗塁記録を更新”がスゴすぎる理由 陸上100メートルの日本記録保持者でも通用しなかった盗塁の奥深い世界
足が速いだけでは……
ちなみにこれまで、代走でのシーズン盗塁記録は1979年に近鉄の藤瀬史朗さん(73)が記録した25個。球団の親会社が鉄道会社の近鉄だったことから「近鉄特急」のニックネームで呼ばれていました。
盗塁を得意とするいわゆる「足のスペシャリスト」として活躍するには、足が速いことが前提条件になることは言うまでもありませんが、ただ単に「足が速い」だけでは不十分です。
1964年の東京オリンピックにも出場した、陸上男子100メートルの元日本記録保持者、飯島秀雄さん(83)はその俊足を買われ、続けて出場した68年のメキシコオリンピックのあと、東京オリオンズ(翌年ロッテオリオンズに名称変更、現・千葉ロッテマリーンズ)からドラフト9位で指名され、翌69年に「代走専門」の選手として入団しました。
プロ野球選手としては71年までと、わずか3年で引退しますが、3年間で117試合に出場し、盗塁23個、盗塁死17という成績でした。盗塁の成功率は.575。5割を超えているのは高い成功率にも見えますが、辰見の今シーズンの成功率が8割を超えているのと比較すると決して高い数字ではありません。
2021年、2度目の東京オリンピックの聖火リレーで、飯島さんが茨城県でランナーを務める直前のインタビュー記事(2021年6月18日付・東京新聞)によると、当時の球団オーナーから「年間30盗塁以上すれば、1盗塁ごとに1万円を付ける」と、今で言うインセンティブのような条件も示されるほど期待されていましたが、3年トータルでもこの数字には達しませんでした。
オリンピックの陸上100メートルに出場するほどの俊足選手が、結果としてプロ野球では足のスペシャリストとして通用しなかったのはなぜでしょうか。
NPB歴代11位、378盗塁を記録した荒木雅博氏(49・現中日ドラゴンズ球団本部長補佐)に、サインではなく自己判断での「盗塁の極意」を聞いたことがあります。
一番重要な要素として挙げたのは「いかにピッチャーのくせを把握するか」でした。
微妙なグラブの角度、視線の動き、セットの仕方など、様々な角度からピッチャーを観察し、「この仕草のときは牽制球を投げてくる」、「このセットの仕方は変化球の確率が高い」など、各ピッチャーのくせを徹底的に研究して、「ここで盗塁できる」と確信をもってスタートを切ると教えてくれました。
さらに「クイックモーション」で投げる際の秒数を把握して、自分の足との比較によってスタートのタイミングを判断していたそうです。
つまり盗塁を積み重ねるには、単に足が速いというよりも、実際に盗塁をするまでにいかにピッチャーを研究し、準備をするかが重要だということです。
「準備すること」の大切さ
荒木さんはレギュラーとして試合に出続けていましたから、実際にプレーの中で出塁してピッチャーを観察できましたが、今回記録を塗り替えた辰見の場合は代走起用ですからプレーの中で体感はできません。
味方が出塁して初めて起用される代走は、いつ出番が回ってくるかわかりません。相手にとってピンチの場面なら代走で出た途端、ピッチャーが交代することもあります。
そんな中で代走の盗塁新記録を樹立した辰見は試合中、ベンチのなかではもちろんのこと、試合以外でも球団が持つスコアラーが積み上げた他球団の選手に関するデータや映像で徹底したピッチャーの分析をしていたからこその結果だと思います。
プロの世界で生きていくためには、何かひとつ人より秀でたものを持つのはとても重要なことです。自分の特性を研ぎ澄まして新記録を樹立した辰見に心からお祝いを申し上げるとともに、これまでの準備に敬意を表します。
今後、ますます盗塁を武器にキャリアを積んでいって名を残してほしいと思います。
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